テッカ(湯田伸一)の中学受験伴走記

私立・国立中学受験生を応援し続けて37年。
中学受験『エデュコ』を主宰するテッカ(湯田伸一)の応援メッセージ。

「中学受験」を「教育虐待」に貶めてはなりません 

2019-07-08 12:41:25 | 中学受験


 過日、あるニュース番組で「中学受験」に関する話題が取り上げられていました。単純に言えば、保護者の価値一元的な入れ込み(押し付け)は「教育虐待」につながる、というものだった様に思えます。私見を述べれば「そのような事象は、起こりうること」となります。

 ご承知の通りエデュコでは、「塾選び」で訪れる方々のご意向を伺う前に、保護者を対象とする「塾選び説明会」・「通常授業見学」への参加をお願いしています。これは、個別具体的な要請の手前で、そもそも中学受験をどう評価するか、どのような意義を見出せるか、我が子にとって中学受験活動は有益なものとなるか、エデュコの学習流儀は保護者の学習観と一致するか、などの問題提起をさせていただくためのものです。

 改めて、中学受験生が直面する現実とともに保護者に心掛けていただきたい事柄を、3点ほど確認しておきしょう。

 第一に、中学受験は子どもたちにとって苛烈な相対比較がついて回ることを保護者は理解しておきましょう。1都3県で同学年を形成する子どもたちは約30万人いますが、そのうち私立中学を受験する子どもは約4万人であり、学校では上位と自負する子でも、中学受験集団の中では普通の子の位置づけになってしまう事です。この集団の特徴を単純に言えば、高校受験偏差値で70近くとして評価される子でも、中学受験偏差値では50あまりに止まるということです。

 第二に、「勉強しているのに相対的順位が上がらない」という悩みは、なかなか解決されないということです。仮に、この「順位」が学校内を指す場合、どのような塾に通っても、やらない状態からやる状態になるのですから、順位は上がって当然です。それに対して、中学受験における相対比較は、積極的に塾通いをされている方々だけの集団における相対評価ですから、簡単に順位を上げることはできません。喩えると「相撲部屋に入門したとしても、全員が着実に番付を上げられるものではない」ことと同様に思えます。

 第三に、子ども一人一人の発達状況は様々であり、発達条件が平等ではないことも心がけておきたいものです。国語における他者の心情理解、算数における空間図形の捉え方など、本人責任ではない発達の差が見られるのも現実です。つまり、中学受験においては早熟タイプが有利であることは否定できません。いわゆる「相対年齢効果:(早生まれの子にディスアドバンテージが見られる)」も、無視できないものです。

 中学受験を選択する保護者の多くは、「私の子だからできるはず」と考えて行動を起こしているものと思われます。もちろん、そのような思いがなければ子どもの中学受験活動を支えることはできないでしょう。
 ただ、前述のとおり相対的な順位だけにこだわって我が子を評価すると、頑張る子どもを否定する状況に陥りかねません。
 保護者の務めは「叱咤激励する」「ホームティチャーになる」ではなく、「子どもの葛藤を理解し、その理解を伝え、子どもにかかる負荷を軽減する」ことと言えます。そのためには、子どものノートなどにいっしょに目を通したり、具体的な学習作業に関する会話を行ったりして、「相対比較でない、自分史における変化」を確認することが重要と言えます。

 ちなみに、子どもたちに対する私の関わり方も、授業説明に増して「個々の家庭学習に対する見解を毎週伝え続けること」が重要と認識しています。授業前に40分、さらに授業開始後も子どもたちが解答している時間を使い1時間位かけて、子どもたちの家庭学習のすべてのページに目を通しながら、一人一人に見解を伝える事にしています。
 「出来ている、出来ていない」ではなく、「いい図を書けるようになった」「もう少し大きな図にすれば、作図の効果を実感できるよ」「いい読解スタイルがついてきた」「このページの解答方法は、…のようにしたらどう?」など、子どもの頑張りに敬意を表する姿勢をきちんと見せることが責務だと思っています。
 さらに、算数の授業では必ず1問ごとに一人一人の解答を確認し、○やチェックを入れることとしています。これは正解を出せなかった子へのダメ出しではなく、「スルーはしないよ。絶対応援するよ」という姿勢を示し続けるためです。

 要は、点数ではない質的な評価、プロセスを評価する姿勢が重要ということになるのですが、こういえば、よくある「結果よりプロセスが大事」という言い方に対する「綺麗ごと」「非現実主義」という批判を受けそうです。
 私は男の子たちにたいして、少年野球を題材によくこんな比喩を示します。「例えば、『監督の教え通り、強振せず右打ちに徹したら一二塁間を抜けた。監督の指示によるヒットエンドランで平凡なショートゴロが三遊間を破るヒットになった。おかげで4打数2安打だった』としよう、本当にうれしいですか?それよりも『ノーヒットだたけど、ものすごく遠くまで飛ばせた。方向が違っていたら三塁打だった。球を飛ばすコツがわかってきた気がする』という方がうれしくないですか?」というものです。

 つまり、何より大事なことは「自信を獲得する確かな自己評価を持とう」ということです。いわゆる「自己肯定感情」の確認です。学習において「よくわからないのに正解することは、良しとしない」と諭し、さらには授業中のノート確認においても「正解の数値と同じだけど、その理屈は成り立たないから○は付けられない」、逆に「正答を示してはいないけど、解答の道筋はその通り、99点だよ」などと対応しています。それは子どもたちも望んでいることに違いありません。

 さて、話を冒頭の「中学受験」「教育虐待」に戻して、保護者や塾講師の役割はというと、「子どもの自己肯定感情」を育む支援に徹するということに他ならないでしょう。相対評価は無視できないものとしても、具体的に子どもの変化を指摘して称賛する(頑張りを承認する)という、姿勢が欠かせません。「強い大人・信頼できる大人・子どもを守ってくれる大人」であることを示し続けなければなりません。
 これは、保護者や塾講師に「子どもの現状に理解を示す努力」「鷹揚に構える胆力」が求められていることを意味します。実際、ほとんどのエデュコ生には5年生まで「偏差値」がついていません。このことは、私たちエデュコスタッフにとって、相対比較の負荷を子どもたちに替って負う事ともいえます。それでも、難関校合格の度合いで言えば、エデュコ開設来26年の間、大手進学教室の合格実績を凌駕する結果を示してきたと自負します。

 「強い大人・信頼できる大人・子どもを守ってくれる大人」であることを示し続けましょう。「中学受験」を「教育虐待」に貶めてはなりません。
エデュコ内での子どもたちは「勉強上手になろう!」を合言葉に頑張っています。
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