拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

つまらない人間

2009-02-04 15:33:33 | 映画
デカプー(レオナルド・ディカプリオ)主演『レボリューショナリーロード』を観た。世界一ヒットした化け物映画『タイタニック』以来11年振りにケイト・ウィンスレットと共演した話題作(の割には空いてたなぁ)。『タイタニック』のようなドラマチックなラブストーリーを期待して観に来た人達を徹底的に叩きのめす気マンマンの、あまりにも挑発的な映画であった。
1950年代、ニューヨーク郊外の新興住宅街に住む美しい夫婦。白く美しい家でイケメン夫(デカプー)と可愛い子供達と共に穏やかで幸せな日々を送る妻(ケイト)だったが、その穏やかさに、彼女は心の何処かで不満を持っていた。大きな夢を抱いて生きていた若い頃の私は何処へ行ったのかしら。夢を忘れて専業主婦として平凡な日々を送る私に、この先何が残るのかしら。そういえば夫は昔、パリに居たと聞いた。パリはニューヨークとは違い、芸術に溢れた刺激的で夢一杯の街だと彼に聞いた。そんな彼も今では平凡なサラリーマン。毎日毎日つまらなそうに出勤する彼。このままでいいのか。そうだ、パリへ行こう。家族みんなでパリに移住して、人生をやり直すのよ!……妻は、こんな壮大な計画を脳内で立ててしまった…。
「平凡な生活に不満を持つ主婦」という設定は日本のドラマなどでも頻繁に見かける。その場合、紆余曲折を経て最終的には、「やっぱ平凡な日々が一番幸せ。とりとめもない小さな幸せを大切にすれば、私は十分幸せに生きていけるわ」というある意味全うな結論に行き着くのが大半だろう。しかし『レボリューショナリーロード』は甘くない。大胆なパリ移住計画を巡り、デカプーとケイトは、ほぼホラーな泥沼の大喧嘩を繰り広げるのだった。「仕事辞めてパリに移住?んなバカな…」と思うデカプーだが、「パリで自由に夢を追う、生き生きしたあなたが見たい」みたいな感じでケイトに熱く熱く説得されて一度はその気になる。うん、ニューヨーク捨ててパリに行く俺、結構カッコいいかも。…でも、サラリーマン生活が染み付いたデカプーには今更叶えたい夢なんて特に浮かばなかった。大体、いくらつまらなくても、安定した収入の仕事を辞めるのには躊躇する。さらに、このタイミングで出世の話が。揺れるデカプーに対し、平凡な日々にうんざりしていたケイトには何の迷いもなかった。しかし、パリ行きが目前に迫って来た時、妻の妊娠が発覚する。専業主婦をやめてパリでバリバリ働く予定だったケイトは中絶するつもりだったが、デカプーは「パリ行き中止のチャンス」とばかりに大反対。結局夫婦は全ての計画を白紙に戻す。安堵のデカプーに対し、ケイトのイライラは頂点に達していた…。
「現状を変えたい」とボンヤリ思っていても一歩踏み出す事を躊躇しまくるデカプーに、私はあろうことか強く共感してしまった。パリ行き断念以降、『レボリューショナリーロード』はいよいよ怒涛の展開に、夫婦の激しい罵り合戦に突入する。この辺のシーンはカット割りまでなんだかホラー映画っぽくなっていて(「あぁ、その曲がり角が怖い!」的な)、異様なまでの緊迫感。そこでのデカプーは本当に観ていてムカつく上に情けないのだが(要はデカプーのダメ男演技がうますぎるという…)、私は常に彼の味方だった。
映画を観ていて、パリに執着するケイトを理解出来ない人は、きっと保守的でつまらない人間なのだろう(私も含む)。彼女のような人を「いい歳して夢を追うなんてアホらしいよな」なんて冷笑することで平常心を保つが、きっと心の奥底では誰よりもその行動力に憧れている、ただの小心者。銀幕に映し出される「つまらない自分」=デカプーに同族嫌悪しつつ共感。『レボリューショナリーロード』を観て、そんな冷や汗モノの映画体験をした。辛かった…。そしてラストをほぼハッピーエンドだと解釈する私は相当のろくでなしなのかなぁ、なんて。その人の性格や価値観や経験によって、解釈はバックリわかれるであろうこの映画。観た後の会話がこれほど盛り上がる作品って久しぶりだ。
この映画の舞台は1955年のアメリカ。デカプー夫妻には幼い子供が二人居るが、その子達が成長し、思春期青年期を迎える60年代後半~70年代は、アメリカの一大転機だった。国内では差別され抑圧されていた黒人達が各地で暴動を起こし、そんな黒人に味方して共に権力と戦おうとする白人が現れたり。国外では文字通り泥沼のベトナム戦争。世界中の活動家から非難されるアメリカ。国内でラブアンドピースを唱えるドラッグ中毒のヒッピー達…。前時代的な古きよきアメリカを守ろうとする大人達に抗うべく台頭した若者達が生まれ育った家は、『レボリューショナリーロード』みたいな状況だったのかもしれない。特にヒッピーなんて裕福な白人家庭を飛び出したような奴ばっかりだろうし、デカプーみたいなつまらない生き方をする父親に育てられ、反発したのかも。デカプー夫妻の子供たちは、映画では驚く程存在感が薄い。しかし十数年後、子供達はデカプーを激しく苦しめるだろう。デカプー夫妻は「レボリューショナリーロード」という名前の通り沿いの家に住んでいるが、まさにその家で、革命家(気取り?)を生み出してしまうのだ。子供達は親の言う事に全て反発し、新しい生き方を見つけるべく爆走するだろう。まるでかつての妻のように。


追記 
中古ショップでhideのシングル「Hi-Ho」を見つけたので即ゲット。嬉しいなー、ずっと欲しかったんだよなー。もちろん、このシングルに入ってる「Beauty&Stupid」のリミックスバージョン目当て。スカパラとhideの、最初で最後のコラボですよ!ハマりすぎ!カッコよすぎ!