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王になった男

2013年02月21日 | あ行 外国映画
李朝朝鮮、15代目の王・光海君の治世。冒頭、1616年と年代が出た。これはのちに清となる後金が建国された年。豊臣秀吉率いる日本が攻めてきた壬辰倭乱(1592年)と丁酉倭乱(1597年)、日本でいう文禄・慶長の役の爪あとも残り、さらに北方から脅威が迫ってくるころ・・・というのがわかる。

倭乱で活躍し、賢君と称されていた光海君だったが、政争やら、謀反の噂などが絶えず、自分も毒殺されるのではないかと疑心暗鬼にとらわれ、若干神経症気味に。。。

腹心の部下に命じていたのが、影武者探し。自分のそっくりの輩を探し出せと。そして見つけたそっくりさん。妓生宿で、太鼓持ちをしていた道化師のハソン。さっそくこの男を王に仕立てようとするが、ハソンは軽い気持ちで引き受ける。金ももらえるし。



しかし、王の替え玉になるのは意外に早かった。王が突然倒れてしまったのだ。意識不明。誰が毒を盛ったのかもわからない。今、王が倒れたと敵側にわかられては困る。ハソンはいきなり王にさせられる。一介の道化師が王になどなりたくもない。もちろん命の危険もある。

断ろうとしたハソンに、王になればこの国を守ることができる、国民を助けることができると側近に言われ、引き受けることにした。王室での作法、王としての振る舞い、言葉使い等々。さすが道化師、王になりきる。しかし、王妃にだけは近づかないようにと厳命される。いくら姿形が似ていても、男女の仲はそうはいかない。



その上、王妃は政府内の有力派の反対勢力の出だった。王に忠言した王妃の兄は、反逆者として捕えられており、王宮内の王は、四面楚歌の状態だったのだ。毒殺されるかもしれない・・と、王が戦々恐々となるのもやむを得ない。

しかし、ハソンは、日々を王として暮らすうちに、徐々に政府内の事なかれ主義と、己の保身だけを考えている高官たちに嫌気がさしてくる。ごくごく普通の庶民の感覚で、正しいと感じることが全く通じない。貧乏人からことさら搾り取る税金。金持ちは国家の窮状にも何の痛みも感じず、弱い者いじめをしている。王の毒見役として仕えている少女・サウォルのあまりにひどい生い立ちを聞いて、憤りを感じるばかり。

ただの言いなりになるようにと言われていたハソンは、人としてやるべきことをやる。人として、そして王としてできることをしてしまう。真の王とは??大過なく過ごせばいいと思っていた側近も、大事なことに気づかされる。目覚めた王、、、しかし、それは偽物の王ではないかととの疑念も起こる。

ハソンの運命やいかに・・・・・?

ということで、李朝朝鮮の王の中で、唯二、王の名をはく奪されたのが、燕山君とこの光海君。二人とも暴君として名を残してしまった。燕山君の暴君ぶりは、いろんなところで語られ、映画にもドラマにも描かれたので知っていたが、こちらは知らなかった。なるほど、時代が時代で、朝鮮の激動の時、不安定そのもので、きっと宮廷内もどっろどろだったんだろうな~と、容易に想像がつく。

結局光海君は、その後政争に巻き込まれ、クーデターで王位を追われ、暴君に列せられてしまったのだが、さもありなん。高官たちには、絶対に嫌われるタイプだ。そのあたりのよくわかってない状況をうまーく脚色して、見事な朝鮮版「王子と乞食」に仕上がった。

久々主演のビョンホン、さらに初の時代劇とか、ビョンホンがフューチャーされるのは致し方ないが、とにかくまず何より面白い!!話も面白ければ、人間関係もよーく描かれてる。王としての威厳たっぷりでありながら、暗殺の影におびえて、神経症気味なあたりに、道化の時の突き抜けた明るさに、心情の変化が見事に表されてる。

うまい役者だとは思っていたが、さすがです。脇もなかなか。側近の都承旨(トスンジ)のホ・ギュンのリュ・スンリョンがまたいい。いろんなものに出てるんで、いつものおじさんだけど、うまいわあ。コメディタッチの演技を初めて見たような気がするけど、最後はギュッと締めてくれた。

生真面目一本のト部将もまたいい味わい。泣かせてもらいました。そして「トガニ」の時のやーーらしい双子の校長先生の内官ぶり!最高っす。「サニー」で主人公のナミ役だったサウォルのシム・ウンギョンも確かだわ。そして、王妃のハン・ヒョジュ。「トンイ」で、おなじみだったけど、凛とした姿がとっても良かった。

明にひたすら、へいこら頭を下げてきた朝鮮という国。儒教の国である朝鮮は、何より上下関係を重んじ、中国を兄と敬い、慕ってきた。自分たちが存在できるのは、明のおかげ。しかし、そのために国民の苦しい生活は省みられなかった。ひたすら上の顔色をうかがい、保身に汲々とする王の姿というのは、庶民にどう映っていたか。

壬辰倭乱で、明は助けてくれた。その恩を返さないとならない。だから明が要請した援軍には答えないとならない。それは民が苦しんでもやらなければならない最優先のことなのか。。蛮族と卑しんだ後金は、この後すぐに清となり、明を破り、中国を支配する。そのはざまにおかれた朝鮮の苦しい時、簡単に答えは出た。王としてすべきこと。民の気持ちだ。民があっての国ではないか。こんな簡単なことを道化に教えてもらうってのもいいですな。

この辺の描き方が、本当にお見事でした。笑って、泣けて、妙にさわやかで、押しつけがましくない教条的な部分もあって、ほんとによかったです。「えーー?ビョンホン??」などといぶかしがらないで、ぜひ見てください。とっても見た甲斐のある映画です。

◎◎◎◎●

「王になった男」

監督 チュ・チャンミン
出演 イ・ビョンホン リュ・スンリョン ハン・ヒョジュ キム・イングォン


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8 コメント

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王になったビョン様 (KON)
2013-02-26 09:50:57
いや~さすがビョン様。周りは奥様だらけ。
かと思うと、若いカップル(彼氏がファンのよう)や、まじめそうなおじさんや、
客層も様々で興味深い。
とっても楽しい映画でした。いろいろな刺激がありました。
ビョン様がきっと今までやったことない自分を一番楽しんだのではないかしら。
あの禁断○○シーンとか。
けっこうコメディも彼いけるのですね。
ただ、道化のシーンが多くて、精神的に追い込まれたほんとの王の方の
心理描写がいまいち薄いこと、王妃と二人の王との関係があいまいなことが残念でした。
スター映画だけに全体的に盛り込みすぐな感じは否めない?
とにかくビョン様!と部下の演技派のおじ様型の芸達者ぶりを堪能することに徹しました。
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>KONさま (sakurai)
2013-03-07 08:41:26
一時期の異様な空気ではなかったみたいですが、やっぱビョンはまだまだ健在!のようでしたね。
いや、ビョンはうまいですよ。この人のデビューのころは、コメディもありましたが、全然うまかったし。
人物描写の背景が薄めだったのは否めませんが、韓国ものって、大体いつもこんな感じじゃない?
最初はさらっと見せて、よくわかんないまま怒涛に流れていく!みたいな。
きっと、光海君あたりは、韓国ではおなじみの王さまなのかもしれませんね。勝手な想像だけど。
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Unknown (mariyon)
2013-03-13 21:37:50
かなりたってからの鑑賞でしたが、それなりにお客さんがはいっているところは、さすがでした。
ビョンホンさんの映画ってことで、かなり引いていましたが、友人から良かったメールで観てきたんですが、
けっこう面白かったです。
韓国の王朝ものってドラマでは定番ですよね。
でも、映画は少ない(日本公開だけ?)気がしますが、
韓国王朝の様子が面白くて、けっこう好き。
ビョンホンもよかったし、面白かったです。
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>mariyonさま (sakurai)
2013-03-15 13:21:27
なんですよ。
え~、ビョン??でいぶかしげになりそうなんですが、これが面白い!ドラマで見慣れてるんで、王様ものでも日本では十分いけると思うんですがね。
「霜花店」ってのが、とっても面白かったけど、これも十分どろどろで面白かった。
もう一回くらい行きたいなあと思ってるうちに終わりそうです。忙しくってたまらん。
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宦官のおっさん (バラサ☆バラサ)
2013-04-15 22:42:42
どっかで見た顔だと思ったら「トガニ」の変態兄弟だったのですか。中々興味深い役者ですね。

ビョン吉は、「甘い生活」とかのすかしたイメージが無く、まあ、良かったです。
大真面目な顔で変態役を演じる「恋愛中毒」と、俺はゲイなのかと悩む「バンジー・ジャンプする」も中々だったので、ビョン吉は名優なのかなぁ。
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>バラサ☆バラサさま (sakurai)
2013-04-16 17:51:05
うまく出来てましたよね。
韓国流の粘っこい話もあれば、コメディも泣きもちゃんとそろってて。
側近の宦官もインパクト大でした。

「バンジー・・」は未見です。見たくなってきた。
なんだかんだいって、ビョン吉!見てますねぇ。
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こんにちは (maki)
2013-10-25 10:18:46
都承旨(トスンジ)のリュ・スンリョンさんとビョンホンさんって年があまり違わないんですってね
そっちのほうがびっくりだわーと思ってました
作品は感動的にもコミカルにもシリアスにも出来ていて、
きちんとエンタメしていたけれど軽すぎるものではなかったのが面白かったところです
屁をこきながら「漏れる~」なビョンホンさんが好きだわあ(笑)
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>makiさま (sakurai)
2013-10-31 14:08:36
リュ・スンリョンさんも、いろんな映画に出てますもんね。
やくざの親分なんてのが多いですが、インパクト大です。
主人公にはならないけど、欠かせない人。
ビョンホン・・・と言うだけで、いいや!と遠慮した方は、勿体ないですよね。
真面目によくできてた。
話もちゃんとしてるし、ビョン吉もうまいし。
これはいい映画と思います。
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