キャピタリズム ～マネーは踊る～

マイケル・ムーアの心からの叫びを聞いたような気がする。


世界をひっくるめて、人間の歴史の中で、一番贅沢で、豊かで、まぁよそからみたら、「うらやましい～」と思われるのは、古代ローマだろう・・・といわれてきた。

王様追い出して、自分たちが政治をする。それは民主主義というよりも、面倒くさいことは誰かにしてもらって、自分たちは、自分たちに不利にならなければそれでいい・・・みたいなもん。

仕事は奴隷がしてくれる。物資は、植民地とした属州からぞくぞくと入ってくる。市民は仕事がないが、国が食い物をくれるから、心配しない。貴族は、毎日毎日御馳走三昧で、食べるときに、鳥の毛を常備して、お腹がいっぱいになると、それで喉をつっついて、吐きながらまた食べていたという。

あんまり暇だとロクなことがないの、ときどき刺激を与えて、娯楽を見せて、お茶を濁していた。

人間暇なもんで、哲学に走ったのがアテネ、娯楽と政治に走ったのがローマ・・・などといわれるが、その巨大な富の塊・・・、古代ローマ帝国と、アメリカの対比がおもしろい。いかにもムーア風の解釈だが、巨大になりすぎてしまった両者は、やはり似ている。

今のアメリカを見て、これが正しい国のあり方だと思う人はいないだろう。でも、厳然と存在し、世界のリーダシップをとり、その影響は瞬時に世界中に広がる。しかし、現実は家を次々と失う人が後を絶たず、ごく一部の人間が富を独占し、真面目にこつこつと長いことを働いてきた人たちが、報われない。

ムーアには、答えが見えてて、これまでさまざまなアプローチで撮っては来たが、どれも彼が求める地点は同じだ。その地点に行くために見せている。

それは、人間が恐怖と感じるところをついて作ってきたアメリカという国の作り方だ。最初から恐怖との戦いだった。先住民は戦いなど望んでいなかったのに、乗り込んで行った彼らが、先住民を敵とみなして、取り上げてしまった。もとをただせば、イギリスを作ったアングロサクソン人というか、ノルマン人の血がなせる業ではないかと思うのだが・・・。

ばらばらな民族によって出来上がった国をまとめるのに一番いい方法は、恐怖で人の気持ちを一つにすること。何より大事なのは、財産。自分の財産を守るためにどんなことをしたらいいか？自分の財産を増やすのはとっても大事なこと。その結果がこうなった。

大事な財産を奪うかもしれない恐ろしい思想は、悪の権化・社会主義。どんな思想なのかを考えさせる隙もなく、とにかく自分たちの財産が脅かされる、自由が失われる。絶対に打倒すべきもの、とすりこんだ。

社会主義は人間には、高度すぎた、と思っている。この欲にまみれた生き物に、平等などという難解なものはできない・・・・ということを歴史は証明してしまった。その問題点ばかりをあげつらうが、もし人間という生き物が、平等をいうものを実行できたら・・・と思う。


今回のムーアの生み出したものは、とっても素直だった。いや、いつも彼は素直だが、なんだかイーストウッドが「インビクタス」に行ったように、彼も直球勝負、素直に過剰な部分もなく、今のやりきれないまっすぐな感情をぶつけたきたように見えた。この気持ちは大事だ。


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「キャピタリズム　～マネーは踊る～」

脚本・監督・製作：マイケル・ムーア