さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

会話体

2016年12月15日 | 
 東京堂出版の『京都語辞典』という本があって、私は最近これを乗り継ぎ電車の手持無沙汰な十分間に見る事にしているのだが、中に引かれている市井の人々の会話の用例がものすごく楽しい。一冊のなかに声があふれ返っているのである。たとえば、

ニシリツケル〈動下一〉 なすりつける。「アンタハンが悪いくせに、ほかの人に責任をニシリツケたら、アキマヘンエ。」→ニジクル

 全体にこんな調子で、このセリフはいまの東京都の諸問題を思い出させるが、本に引用されている夫や子供相手に投げかける言葉のどれもが、なかなか手厳しい。もうひとつ。

ダカマエル(抱かまえる)〈動下一〉抱きかかえる。「あの人にダカマエられたら、離さハラヘンエ。」ダクとツカマエルとの綜合か。ダッカマエル・ダカエルとも。

 ダッカマエルなんて、響きが外国語みたいだ。ロシア語ではなんというのだろう。

さて、今日買ったのは、ちくま文庫の黄色の復刊の帯がついている上林暁『禁酒宣言』である。短編集の冒頭の「女の懸命」を一気に読了した。これがまた、会話体の文章模写の極致のような文章でつづられている。こういう会話の文章が得意な作家のものは、たとえば里見弴がそうだろうが、読んでいるとこちらの精神がなめらかになるような気がする。

先の土・日に買ったのは、次の本など。
・里見弴『月明の径』(昭和五六年文藝春秋)
・川口松太郎『うた姫静』(昭和三十一年)
・辰巳芳子『手からこころへ』(2004年海竜社)
・辰巳芳子『いのちの食卓』(2004年マガジンハウス)

辰巳芳子については、私は「毎日新聞」の日曜版で「いのちのスープ」についての記事を読んで感動して以来の支持者である。その記事のコピーは、自分の職場で若者たちに読ませて自分の考えを書かせるための定番教材として用いている。

※しばらく消していたが、何かの参考になるかと思って、タイトルを変えて復活させることにした。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿