さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

雑感 文末に堀合昇平の歌を紹介

2018年11月17日 | 政治
※ 知人がやっている雑誌に2015年11月に出した文章が出て来た。けっこう今でも通用しそうな内容だからアップする。先日〇〇党の議員が駅頭で、ТPP条約への批准を今後もアメリカに促していきたいと演説していたが、一種の不平等条約であるТPP条約をおめおめと推進しようなどと言っていること自体が、オメデタイ脳味噌の持ち主であることを暴露している。〇〇党の不勉強な県議レベルは、だいたいこういうのが多い。

 雑感  
                     
 いま日本の国が置かれている危機的な状況について理解するための、もっともわかりやすい本を紹介するとしたら、私はためらいなく堤美香の本をあげるだろう。食べ物については『(株)貧困大国アメリカ』(岩波新書)を、医療制度については『沈みゆく大国アメリカ<逃げ切れ!日本の医療>』(集英社新書)がいいと思う。先頃のТPP交渉のニュースを見るたびにいつも頭に思い浮かんだのは、『(株)貧困大国アメリカ』に掲載されていた薬でふとらされた鶏の写真であり、抗生物質がきかなくなった豚肉生産農家の農民の証言だった。

 私は最近になって、発泡酒や第三のビールの原料に遺伝子組み換えのトウモロコシが使われていることを知って驚いた。各社がそういう原料を使用しはじめたのは、今年のはじめ頃からだというが、知らないうちに何という事をしてくれたのかと思う。価格の高い従来のビールでは、非組み換えのトウモロコシ由来の原料を用いているということだが、当然だろう。それとても、元々五パーセントまでなら遺伝子組み換えのものの混入が認められているのだそうである。

 遺伝子組み換えの農作物は、発がんリスクが高いと言われている。さらにまた、遺伝子組み換えのトウモロコシは、家畜の餌に使用されている。だから、アメリカ産の肉をやめて国産にしたとしても、その肉の生産者がどういう飼料を使っているかによって危険性は変わって来る。

 だから、生産者の顔が見えない製品は、今後ますます危険性が増すということである。逆に言うと、そこに農業・畜産業の未来の可能性はある。とは言え、ТPP交渉の内容について、それがもたらす影響について、今後とも注視し続ける必要はあるのである。

 私は今年の一月から一年間、砂子屋書房のホームページで「今日のクオリア」という原稿を書いて来た。その中でТPPについての歌として、池本一郎の次の作品を取り上げた。

 ちちんぷいぷい 何の呪文でありしかなТPPを見ざる日はなく

    池本一郎『萱鳴り』(2013年)より

 <「ТPPを見ざる日はなく」という下句は、「ТPP」という言葉を新聞やテレビの上で、ということだろう。この作者の歌には、飄々としたユーモアが感じられて、いつも楽しくページをめくることができる。ジャーナリストの堤美果の本などを読めば、現在日本人が置かれている状況は、長新太作の絵本『ブタヤマさんたらブタヤマさん』の主人公のようなものだということがわかる。
 この本についての出版社の紹介文を引くと、「ブタヤマさんは、ちょうとりに夢中。うしろからおばけや、大きなイカやヘビなどが呼びかけても知らん顔。ちょっとこわいが楽しいお話。」とあって、河合隼雄が最終講義で引いているのをテレビで見て以来、私はこの絵本が恐るべき傑作だと思うようになった。> と書いた。

 その文末には、やや不謹慎な冗談として、
<さて、「ちちんぷいぷい」と言って退散しないお化けをどうしたものか。ゲームに移し替えて、ゼロ戦で撃ち落とすのもいいかもしれない。>
などと余計なことを書いてしまった。「ゼロ戦で撃ち落とす」という時代錯誤なことを書いたのは、戦争末期に進化したアメリカのグラマン戦闘機の餌食となってやられてしまったゼロ戦のイメージを重ねたのであるが、秘密の交渉の蓋をあけてみると、やっぱり相当にやられてしまっているのは、最近のニュースによっても明らかである。「ちちんぷいぷい 何の呪文でありしかな」とは、まったくぴったりの言葉であったのだ。後日著者より葉書が来て、私ら農民にはТPPなどど言われても本当に何のことやらわからないのです、とあった。そういうダマクラカシの法案なり、「閣議決定」なりが、ここ数年多すぎる。

 安保法案についての議論で世間が騒がしかった頃、労働者派遣法の改正案が国会を通過していた。ニュース解説では、「事実上、人を入れ替えれば企業が派遣をずっと使える仕組みに変わる。背景には多様な働き方を広げようという政府の考えがあるが、逆に不安定雇用が広がるという指摘もある。」(「朝日新聞」)とあるが、長期にわたってボディーブローのように効いて来る点では、ТPP交渉の結果以上のものがある。

 ここ数年の間の若い労働者の現場の苦難を詠んだ歌集としては、堀合昇平の『提案前夜』(二〇一三年 書肆侃侃房・新鋭短歌シリーズ)が印象的だったが、知らない人もいると思うのでここに紹介しておきたい。著者は一九七五年神奈川県生まれ。「詩歌句」のホームページ掲載作品から。

原色のネオンに染まりゆく街で遠吠えの衝動をおさえつつ
試せども試せども不敵の笑みはうまく浮かばず 待ち人がくる
生垣の隙間にみえる裏庭に野ざらしで立つぶらさがり健康器
眠れずにきつく閉じれば明け方のまぶたのうらに何も映らず
脱衣所のうす暗がりに浮かんでは消える充電ランプのひかり



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