時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三百六十二)

2009-02-28 21:39:20 | 蒲殿春秋
宣旨を手にした源頼朝はその宣旨を最大限に活かすことを考える。
まず、ここに足柄山に集っている御家人たちにこの宣旨の内容を披露する。
ついで、ここにいない坂東の豪族達にこの宣旨の内容を伝えさせるべく使者を発した。
頼朝の使者は坂東に留まらず、北陸、豪族達、そして南奥州の豪族たちにも派遣される。
頼朝の東国支配が朝廷に認められたことを東国の住人達に深く浸透させるのである。

さらに、頼朝とは独立勢力である甲斐源氏が支配する駿河以西の東海道にもこの宣旨を披露し甲斐源氏に圧力をかけつつ更なる協力を求めるよう要請せんと頼朝は欲した。
しかし、実力で東海道を支配している甲斐源氏の人々は下手をすると宣旨とそれを受けた頼朝にたいして反感を感じるかもしれない。
宣旨には甲斐源氏が実効支配している駿河以西の「東国」も頼朝の支配を認めるという内容になっているからである。
甲斐源氏は挙兵以来頼朝と同格の武家棟梁として東海道諸国に存在している。
その甲斐源氏が頼朝の支配につくという宣旨はかれらの誇りを傷つけかねない。
甲斐源氏の扱いは慎重に慎重を期さなければならない。
その甲斐源氏との橋渡しをするうってつけの人物が頼朝の縁者に二人いた。

一人は舅の北条時政。
時政は駿河に勢力を張る牧宗親の婿であり、現在も甲斐源氏の影響も受けている伊豆の豪族でもある。
時政は石橋山の戦いの後甲斐に逃れ一時期甲斐源氏と行動を共にしていた時期もあった。
時政と甲斐源氏とのつながりは深い。
甲斐源氏総帥武田信義と駿河を支配しているその嫡子一条忠頼への口利きをしてもらう。

もう一人は異母弟の蒲冠者範頼。
彼も一時期甲斐に逃れ甲斐源氏と行動を共にしている。
特に、遠江を支配している安田義定とは義定の遠江進出の援護をし、範頼の三河進出には義定が支援したという
持ちつ持たれつの盟友の関係である。

この二人にまずは宣旨の内容を披露し甲斐源氏に宣旨実行の為の協力を要請させるのである。
彼等は甲斐源氏と強いつながりをもつ一方で頼朝の縁者でもある。
時政も範頼もこの宣旨の持つ意味はわかるであろう。
両方に縁を持つということは、彼等が甲斐源氏の支配下に収まる可能性もあるのであるが、頼朝からしてみればこのような大事を彼等を使って仲立ちさせることで
時政や範頼と頼朝との縁を強まらせることに期待をするしかない。

頼朝には一抹の不安もあった。
昨年の亀の前騒動で現在も伊豆にこもりっきりの時政が頼朝の依頼に応えるどうかということに。
だが、頼朝の傍らで日々家の子同様に近習として仕えている時政の子江間四郎義時の話によると、ここのところ時政も牧宗親の態度も軟化しているということである。
今のところこの義時の言葉を信じるしかない。

前回へ 目次へ 次回へ

にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ



最新の画像もっと見る

コメントを投稿