時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(四百三十四)

2009-11-28 05:57:18 | 蒲殿春秋
もう一つの書状は盟友安田義定からである。
義定は、平家を追討するにしてもしないにしても鎌倉方の方針に従うという意思を記している。

そして最後の書状を開く。
弟義経からのものである。
義経は入京後都の武者たちとしきりに接触を持っている。
特に義仲が都に在る間、義仲と不仲になっていた武士達との親交を深めようとしている。

その中で有力な二人の武将に義経は好感触を感じているようである。
一人は以仁王と共に滅んだ源三位頼政の孫源有綱。
摂津渡辺党を率いる摂津源氏の一員である。
摂津そして畿内に勢力を扶持している。
摂津は都と福原の間にある。
そしてもう一人、摂津でもより福原に程近い所に勢力を持つ多田行綱。
彼は摂津国筆頭の武士とも言える存在で彼の摂津国における影響力は強い。
この二人が鎌倉勢に対して好意的なのである。
上手くいけば平家攻めになった場合協力してくれる可能性が高い。
そのように義経からの書状は記している。

範頼は書状を閉じた。

平家とは和議を結ばない可能性が高い。
ならば平家攻めである。
そしてその中心となるのは当然鎌倉勢である。
その鎌倉勢を率いるのは当然自分と義経になるであろう。
戦うからには勝たなければならない。

勝つためにはいかにすべきなのか。

それを考えなくてはならない。

範頼の眠れない日々が始まった。

前回へ 目次へ 次回へ

にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ