時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

延慶本について その1

2006-11-12 22:50:47 | 日記・軍記物
以前に「延慶本平家物語」を読んだらレビュー書きますとかいていたのに
中々書くことができませんでした。
最近やっと借りることができたので徐々にレビューをかいていきたいと思います。

読んだのは
北原保雄・小川栄一編「延慶本 平家物語」(勉誠社 1990年)
です。

まず、「延慶本 平家物語」とは何かということについて書きます。
「平家物語」と一口に言っても大筋はおなじですが細かいところの描写は色々と
分かれています。
そして、それぞれの成立年代や背景もバラバラです。

(これについての細かい説明は専門書が出ているようなので
またまた機会があったら読んでみようかと思っております)

まず、成立の背景による分類では
「語り系」と「読み本系」があります。
「語り系」とは琵琶法師がやっている一般的に知られている内容のことです。
読み本系」とは「読むために作られたもの」です。

そして、「語り系」の方がテンポがよい代わりに内容が簡略化されています。
「読み本」の方はまさに「読み応え」があります。
どちらもそれぞれの良さがあります。

こんどは成立年代についてですが
本によって成立年代が違います。
本来の元本は現在は入手不能です。
しかし、その元ネタをベースに色々な「平家物語」があります。

「延慶本」は現存するものの中で最も成立年代の古いものではないかと言われています。

つまり
「延慶本」は
最も成立年代が古くかつ「読み本系」で内容が充実している「平家物語」
といえると思います。

そして、読んでみたらところ成る程一般的に知られているものより「中世色」が濃いように感じれます。
(つづく)

蒲殿春秋(六十二)

2006-11-12 21:52:43 | 蒲殿春秋
養父範季か下野行きを頼まれたから二日の後には範頼はすでに彼の地を目指す馬上にあった。
秋も深まり夕暮れも近づくと風の冷たさが身にしみる。

「なあ当麻太郎よ」
範頼は轡を並べる側近に声を掛ける。
「はい」
「何故今になって基成様は養父上を警戒なさるのか?」
「と申されますと」
「我々が奥州に入ってすぐの頃は、さほど養父上と基成様との間には諍いめいたものは見られなかった。
それどころか、基成様は私をわざわざ館に及びになり九郎とお引き合わせくださったのだが・・・
それが何故今頃になって九郎が親しく養父上の屋敷に出入りしたり我々兄弟が親しくするのを警戒なさるのか。
それに、養父上が院の覚えのめでたいことも右大臣さまの元に出入りしていることもご存知だったはずなのに」

範頼は疑問を投げかける。
「私には基成様がなにを考えているのかはわかりませんが」
当麻太郎は答える。
「基成様も殿を九郎様に会わせた頃の思惑と現在の思惑が変わったのやもしれませぬ。人はいろいろな思惑を秘めているもの。けれども思惑通りに動かぬのがこの世の中。人の想いも世の流れも常に変わるものでございます。
ただ、私が思いますに、陸奥守と平泉の御館(秀衡)の最近の仲のむつまじさは気になるところでございました。
基成様としては、自分がないがしろにされたのではないのかとお考えになったのやもしれませぬ。それに・・・」
当麻太郎は近づいた。
「九郎様です。あのお方は他の誰もがお持ちではない輝きをお持ちです。
あの方を陸奥守様にとれらてしまうと基成様は警戒されたのやもしれませぬ」

秋の夕日を受けた紅葉が主従を穏やかに照らしていた。

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