星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

このまま

2006-10-30 06:45:44 | つぶやき
このまま私は、消えて無くなってしまうのだろうか。

かくれんぼをしていて、ずっと息をひそめて隠れていて、最初は、うまく隠れていることに得意になっていたのに、最後には相手はかくれんぼのことを忘れていたというように、このまま、静かに、相手に気付かれないまま、終わってしまうのだろうか。

忘れられてしまったのかと、不安になりながら、何か落ち着かなく、私はどうしていいのか分からなくなる。

最初から、かくれんぼなんかしていなかったのだと、気付いて、愕然とするのかもしれない。

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夕凪(5)

2006-10-30 00:31:20 | 夕凪
(5)
 
 なかなか眠れなかったと思っていたのに、寝たらすぐに朝が来てしまったようだ。目覚ましの音に目を覚ますと、ベッドの脇に置いた体温計を手に取った。今更計っても意味がないとは思いながらも、あの日から計っている。ずっと高いままだと、その可能性があるらしかった。そのままの姿勢で計る。ブザーが鳴った。36度6分。体温なんて風邪の時以外に計ることがないのだが、この数値はそれほど高いとは思えなかった。私は見た目は体温の低そうな人間に見られるが、そうでもない。体温計を持ったまま、そのまま暫く目を閉じた。もう頭痛はどこかへ行っていたが、なんとなく頭はだるかった。

 起きてすぐにトイレに行った。もしかしたら、と半ば祈るように期待したが、なんの変化もなかった。来なくてはいけないものは来ていなかった。明日が予定日なのだが、それほどいつもぴったりと来るわけではない。でも、早いときだってあるのだから、もう来たとしてもおかしくなかった。壁に貼ってある、カレンダーを見つめる。先月のことを、思い出してみる。どう考えても、もうそろそろ来てもいい日だった。目がカレンダーの日付から、動かせなくなってしまった。トイレの中で、そうして何もしないで、数分間を過ごしてしまった。

 自宅の近くのバス停で、駅に向かうバスを待っていた。私の横に、ベビーカーを傍らに停めた若い女の母親が並んでいた。そこにはまだ生まれて間もない赤ん坊が寝ていた。子供嫌いの私は、普段子供には目もくれないのだが、今日はなぜか、その子から目が話せなかった。私がその子をじーっと見ていると、私の隣に並んでいた老婦人が、「ねえ、可愛いわねえ。」と私に同意を求めるように呟いた。
「そうですね。」
 私は、この場にふさわしいであろう返事をした。でもそんなことは少しも思っていなかった。赤ん坊の可愛さの基準というものが、私にはよく分からないのだが、私にとってその赤ん坊は、どう見ても可愛いとは思えなかった。というより、可愛いとか可愛くないとか、そういう気持を起こさせないのだった。それはただの、赤ん坊であって、それに対して特に感想を持つほどでもなかった。老婦人はその子に向かって、にこにこしたり顔をしかめたりして、百面相さながらの顔付きをしていた。赤ん坊は、そのコロコロと変わる顔を見て、足をばたばたさせて喜んでいた。私は、私が心の中でこんな気分でいるのを悟られるのを恐れるかのように、それを見てただ微笑んでいた。
 
バスが来た。若い母親は子供をベビーカーから出して、脇にさっと抱えた。そして片手でベビーカーを瞬時に畳んだ。片手に乳児を抱え、肩にベビーカーを背負ってバスの階段を上がるのは、少し難儀なようだった。私がそう思っているところに、先ほどの老婦人が、ほら、と言ってベビーカーを母親の肩から下ろして、代わりに持ってやった。一瞬のことだった。でもそれは、とても自然だった。私は、自分がその母親のすぐ後ろにいたのに、そういう心配りが出来ないことを、少し恥じた。私には、そういう優しさが足りていない。
 
 バスに乗ると、座席に座った母親は、子供を膝の上に抱っこした。その目は、じっと赤ん坊に注がれていた。赤ん坊も、じっと母親の顔を見ていた。母親は、膝の上の、自分の子供にしか聞こえないような小さな声で、何かを話し掛けていた。それに反応して、赤ん坊がにっと笑う。言葉が分かる年齢でもないだろうから、言葉に反応している訳ではなくて、きっとそれは、母親の笑顔につられて笑っているのではと思った。母親と子供の間に、完璧に遮断された世界が出来上がっているように思えた。きっとあの赤ん坊の世界には、母親しかいないのだろう。母親がすべてなのだ。母親が、安心でき守られていると実感できる土壌。赤ん坊は母親の笑顔しか、目に入っていない。また母親も、なんとも言えない平和な表情を浮かべて、子供を見入っていた。母親にとっても、また子供がすべてのように思えた。

 私はなぜか、膝の上に抱かれている、見ず知らずの赤ん坊に、嫉妬のような感情を持ってしまった。あんな風に見つめられ、抱かれている子供は、何と幸せなことか。そして、あの母親は、どうしてあれほど慈悲深い表情をしているのだろう。あの落ち着いた包み込むような微笑が、あのように自然に出てくるのは、何故なんだろう。自分の子供というのは、それほど絶対的な存在なのだろうか。無条件に安心を与えることができる、唯一の存在なのだろうか。そう考えると、それは自分が持っていなかったものだと思った。それでも私は、自分の産んだ子供と、そのような関係を結べるのだろうか、そう思わずにいられなかった。

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コメント (2)
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