欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

その街に息づく願いの仕方

2012-08-07 | une nouvelle
外灯にもたれかかりピエロは夜空を見上げているのです。
ああ、星よ。この言葉が届くのなら僕の願いを聞いておくれ。
そのまま力なく歩きはじめ、郊外の小さな家を目指して。

裏路地を歩いていくと、夜中にもかかわらずあいている小さなカフェがありました。
その明るさに目がとまり、店の中をのぞいてみると、白い髭をははやした店主がのんきに新聞を読んでいるではありませんか。
ピエロは行き過ぎようと思いましたが、なにかが心にささやいたのです。
あなたの求めるものがここにはあるんだよと。
入口に近づいて、中をうかがってていると、
ほう、めずらしい珍客だ。いらっしゃい。
カウンターの向こうから、白い髭の店主が手招きしているのです。
さぁ、なにをためらっているんだ。入ってきてあったかいものでも飲んでいきなさい。

ピエロはカウンターに腰かけて、お茶を待っていると、
う~む、ピエロにしては元気のなさがにじみ出ているぞ。どうした? 心の暗がりは早くとりのぞいた方がいい。
ピエロは言います。
実は・・、僕の彼女がいなくなってしまったんですよ。突然に、さよならも言わず・・。
ほう。
ピエロはさらに、
もともと活発で明るいのが取り柄の彼女だったのに、こんなに突然いなくなるなんて・・。
深いため息をつくピエロに、店主はうなずきながら、
う~む、これはなにか深い理由があるに違いない。で、連絡のとりようはないのかね?
ピエロは残念そうに首をふるのです。
う~む。だったら、もう上にお願いするしかないな。
ん?
ピエロはちょっと意味がわかりかねて、
上とは、どこですか?
上だよ。見上げたことはないかね、夜のお星様を。
驚き目を丸くしているピエロに、
そういう時にはな、お星様にお願いするのが一番なのさ。
本当にお星様に願いをすると、叶うのですか?
当たり前じゃないか。わしゃ、この年まで何度お星様に助けてもらったことかね。

店主は自分の人生に起こった不思議なことをピエロに話して聞かせました。すると、ピエロの気持ちもだんだんと軽くなり・・。
そういうことじゃからな、帰りの道ででもお星様と話をしてみるといい。きっとお前さんに良い贈り物をしてくれるはずだから。
あったかいカモミールティーを飲み干し、ピエロは席を立ちます。
ありがとうございました。とても気持ちが明るくなりました。
店主は髭の奥に笑みをうかべて、
その調子だ。しっかりやりな、ピエロさん。涙を浮かべるのは芸の中だけにしてな。

静かな夜更け。帰りの道で空を見上げながら歩くピエロ。
川沿いを歩き、家が見え始める頃、星はひときわ輝いていました。
しかし、そんな変化もピエロは見逃して・・。
家にたどり着くと、一枚のカードがドアに挟まっていました。
そこには、探していた彼女からの文字が。
愛するあなたへ。やむない理由で突然消えてしまったけれど、けっして愛を忘れたわけではないのよ。もうすこし待っていてね。
ピエロはカードをにぎって家の中に。
電気をつけるでもなく明るい窓際に立って、星々を見上げ、話しかけてみるのです。
ああ、お星様。このような不思議な出来事をどう説明したらいいのでしょう。今は彼女の無事を祈るのみです。
しかし、明日への希望は生まれました。またあの明るい笑顔の彼女とともにわたしが暮らしていけるようにと。
そして、あのカフェのおじいさんにも祝福を与えてあげて下さい。
忘れかけていた大切なものをふたたび気づかせてくれた人ですから・・。