欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

ワイン工場のやや込み入ったお話

2012-03-11 | une nouvelle
山の方へ太陽が沈んで静かな田舎町に夜がやってこようとしていました。
ワイン工場の外でタバコを吸うふたりの従業員。
いつもは楽しくこれからの夜をどう過ごすか話すのですが、今日ばかりはちょっと違うようです。

おまえ、あの話は聞いたか?
ああ、聞いた。
驚いたこともあるもんだ。あさかあのじいさんがなぁ。

そこへ工場のドアを開けて、女の従業員が出てきました。

お疲れさま。またふたりして、これからの悪巧み?
そんなんじゃないや。
なにかあったの?
昨日の泥棒を話、聞いただろ?
聞いたけど、それがどうしたの?
あの泥棒が話したこと、本当だと思うか?
わたし、あまりくわしくは聞いてないんだけど・・。

そこで、ふたりがくわしく説明する泥棒の話とは、

都会から借金のために逃げてきた中年男。なんの目的もなくやってきた先には大きな工場が・・。
夜になり、そこに忍び込んで、はじめてここがワインの工場だと気がついて。
すると、赤ら顔のおじいさんが後ろから声を。驚き動揺している中年男におじいさんが言ったこととは、

ここのワインはなんといっていいか、不思議な味が宿ってるんじゃ。
その不思議さはな、この土地にタネがあるんじゃよ。
昔、ここに流れ星がいきついたという逸話があってな、それはたいそうな穴があいていたそうじゃ。
だから、この土地にはどこかの星の石ころなどが巻き散らかされているらしい。それがワインにひと味つけるというものさ。
なんだってかなう魔法のワイン。
どうじゃね、お前さんも飲んでみては・・。

必死に断る中年男を自分も飲むからと強引に誘って、

どうじゃ? おいしいのは折り紙付きじゃが、この不思議な甘み。
お前さんの願い事はなんじゃね?

次から次にすすめられ飲んでいるうちに、ふたりはぐったりと樽の壁のお世話に・・。
中年男がおぼろにおぼえているのは、

お前さん、若い時からすこし嘘が過ぎたようじゃな。
ただ、嘘は癖になるから気をつけなきゃいかん。
いつまでも嘘にすがっていてはしあわせにはなれないぞ。
どうだ? このワインに正直者への道を願ってみては・・・。

翌朝、千鳥足で警察に引き渡された中年男。
警察にて、いろいろ聞かれているうちに泣けてきて。
もう一度あのおじいさんに会わせてほしいと。
しかし、工場主だった赤ら顔の社長は昨年この世界を後にしていて・・。

それって本当の話なの?
どうもそうらしいぜ。
だったらあなたたちももうすこししっかり仕事しないと、また出てきちゃうわよ。
そりゃ勘弁だな。
また言われるんじゃない? こら、またお前たちか。よし、今夜もワシの酒にたっぷりつきあってもらうぞって。

ひっそりした沼地で

2012-03-11 | une nouvelle
ひっそりした沼地でケロケロ。星のいっぱい出た夜空にむけてケロケロ。
水面から半分顔を出して、虫のごちそうが通りかかるのをしずかに待っている。
そんなカエルの夢は虹色の体を手に入れること。
たくさんいるカエルの中でも美しくてきらびやかな特別な存在になること。
今も遠い一番星にむかって願いをささやいているのです。

お星様、どうかこのわたしをとびっきり目立つ存在にして下さいな。
羨望の的で、オスたちがこぞってわたしのごきげんをうかがうように・・。

そこに一匹の虫が水面すれすれを飛んできました。
ぱくり、と見事にしとめて、ゴロゴロ口をうごかしながら、さらに願い事を・・。

お星様、できれば小さな虫たちが列になって飛んできて、お腹がすいた時だけぱくりと食べられるようにして下さいな。
ハエや蚊などの小さな虫でいいのです。いつも同じだと飽きるので、たまに違ったものが飛んできてくれるとなおオッケーです。

モゴモゴと口を動かしながら、そうささやいているカエルのそばに、さあっと近づいてくるものがあります。
白い水鳥が沼に浮かぶ石におりてきて。

そこにいるカエルさん。お気をつけて。うちの彼氏が狙っていたことよ。
でも、今はそんなにおなかがすいていないからいらないんだって。
そんな見栄えでよかったことね。うちの彼氏はきれいなものが好きだから、あなたはお眼鏡にかなわなかったみたいよ。よっぽどお腹がすいていないかぎりはね。

静かな沼地に声が響き、また水鳥は空高く飛びたっていきました。
夜空で二羽の水鳥が森の方へ消えていくのを見送っていたカエルは、

お星様、虹色の体はもうけっこうでございます。
この体でもわたしはとても満足。
でも、ちいさなごちそうは定期的に贈って下さいな。わたしは虫の見た目など気にしたりはしませんから。