“空飛ぶ絵師”こと五雲亭貞秀の『富士山真景全図』は、富士山をほぼ火口の真上から描いた一枚の絵である。
一辺が、約1m。視点を富士山の真上におくという大胆なアングルで描かれており、計算によると600〜700m上空から見た通りらしい。
火口には、もう一枚の紙が折り畳まれていて、引っ張ると立体的に立ち上がる、“起こし絵”、今でいう“飛び出す絵本”になっている。立体に組み立てることを考えて描かれたものなのだ。
また山麓辺りには、もう一枚紙が張ってあり、それをめくると洞窟が表れ、胎内巡りをする人々が描かれている。
この『富士山真景全図』は、富士山信仰の信者のために制作したものといわれる。版画なので数多く刷って、信者に配ったのであろう。
貞秀は、富士登山も実際にしており、嘉永年間に5〜6回登ったことがわかっている。
富士山の頂上から見た眺めが、それ以降の彼の作品に大きく影響することになる。