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“大英博物館、古代ギリシャ展”  2011.8.17 (国立西洋美術館)

2011-08-17 20:36:24 | Weblog
 展示作品は古代ギリシャ、前6世紀から後2世紀のものである。(例外は1点、前26-24世紀頃の大理石像。)
         
 Ⅰ 神々、英雄、別世界の者たち
 ゼウスの雷霆(らいてい)が不思議なもの。ゼウスが左手に持つ。雷を起こす武器。(1. 「ゼウス小像」、後1-2世紀)
         
 ゼウスの頭部から武装したアテナが生まれた絵が奇妙。それも鍛冶の神ヘパイストスが斧でゼウスの頭を割り、そこからアテナが生まれた。(3.「 黒像式頸部アンフォラ」、前520年頃)
                 
 ゼウスが鷲となってトロイアの王子ガニュメデスをさらう。ゼウスはこのかわいい王子に恋をし天上に連れ去りお酌をさせたという。ゼウスは美女にも美少年にも恋をする。(10. 「鏡のケース」、ブロンズ、エトルリア後期(前3-2世紀))
 ギリシャにもスフィンクスの話が伝わる。スフィンクス像の顔がヴィーナスのように美人である。スフィンクスは女性の顔、ライオンの身体、鷲の翼を持つ怪物。テーバイで若きオイディプスに謎を解かれ、恥じて崖から身を投げ死ぬ。(18. 「スフィンクス像」、後120-140年頃)
         
 Ⅱ 人のかたち
 「優勝選手の像」(27、後1世紀、前430年頃のオリジナルのコピー)は片足に体重をかけたコントラ・ポスト様式。大理石なのにやわらかく見える。
         
 「アフロディテ像」(43、ローマ時代、前4世紀のギリシアのオリジナルに基づくヴァリアント)は裸体のアフロディテ。紀元前4世紀ギリシアの彫刻家プラクシテレスの「クニドスのアフロディテ」が原型。優美。
         

 Ⅲ オリンピアとアスリート
 「黒像式パナテイア(全アテネ)競技祭アンフォラ」(59、前530-520年頃)は、最も名誉ある競技、長距離走の様子を描く。アスリートの誇りと気迫を感じさせる。
 オリンピア競技は軍事的行事である。「赤像式キュリクス(酒杯)」(65、前510-500年頃)には重装歩兵の競走が描かれる。

 Ⅳ 人々の暮らし
 楽しい図像がある。前420-400年の「クス(酒瓶)」には、はいはいする男の子(73)、闘鶏(74)、オモチャの車(75)の絵がある。
 「字を書く少女の坐像」(77、前4世紀)は、彼女の真摯さが見て取れる。「読み方のレッスンをする教師と少年の像」(78、前1世紀)がほほえましい。
 金製品は精緻。「耳飾り」(95、金、前330-300年)はエロス(キューピッド)の彫像を持つ。
                 
 性関係は異教的でキリスト教倫理とは無縁。「黒像式マストス(乳房形酒杯)」(103、前520-500年頃)は具象的で生々しい。
 「赤像式ペリケ(水差し)」(104、前440-430年頃)の絵は地面から生えた数本の男根に女性が水をかける。宗教的儀式と思われる。
 「赤像式ヒュドリア(水甕)」(106、前430年頃)には踊りのレッスンの図像があるが、少女たちは高級娼婦となるために踊る。
 「赤像式キュリクス(酒杯)」(107、前480年頃)には勃起した男根に女性が上から乗る絵が描かれている。エロティックというより、あっけらかんとしている。

 Ⅴ 個性とリアリズム
 「ソクラテス小像」(112、ギリシャのヘレニズム時代またはローマ時代、前200-後100年)は有名なソクラテスの姿どおり。醜男。
         
 「椅子に座る太った女性の小像」(126、前300年頃)は醜さを描く。ヘレニズム期の「グロテスク」像である。
 「役者の小像」(132、前1世紀)は身体障害の低身長の者たちが、役者、見世物、余興の剣闘士として生きた時代を伝える。
         
 《感想》
 2000年以上前の古代ギリシャ。その文化が複雑だとわかる。一方で理性と哲学、均整がとれた彫刻の美、真善美の世界。だが、これは一面である。他方で、異教的、非理性的な混沌。神々はキリスト教倫理から程遠い。男女の性関係は奔放。さらに年長の男が美少年を愛し、少年にとっても年長者との特別の性的関係は成長のための糧とされる。
 人間の広義の精神世界=文化は、多様に展開可能なのだと思う。
 オリンピアとアスリートは狭義には身体の領域だが、それは人間の精神の現れで、広義には精神世界の展開である。
 遠い昔の、遠い異国の人間たちの精神世界、その豊かさに接することができて楽しかった。