ベルギー、フランダース地方ゲント市近くにシント・マルテンス・ラーテム村がある。ここに19世紀末から20世紀初頭にかけて芸術家たちが移り住んだ。「フランダースの光、ベルギーの美しき村を描いて」展は彼らの作品を時代を追い3つの世代に分けて紹介する。象徴主義、印象主義、表現主義と様式がことなる3つの時代からなる。
Ⅰ 象徴主義
ラーテム村の第1世代。深い精神性を表現した象徴主義絵画を発展させる。
アルベイン・ヴァン・デン・アベール「春の緑」(1900年):樹々1本ずつ丁寧に描く写実主義。だが精神的な静寂を感じさせる。美しい。
ギュスターヴ・ヴァン・ド・ウーステイヌ「悪しき種をまく人」(1908年):背景が金色のベタ地である。古い宗教画の技法。日常が宗教性と出会う緊張感。良い土壌がなければ神の言葉も実を結ばない。聖書の教えである。
ギュスターヴ・ヴァン・ド・ウーステイヌ「春」(1910年):明るく浮き浮きする。しかし写実ではない。思い出された想像のラーテム村の春である。明るい精神。
ヴァレリウス・ド・サードレール「フランダースの農家」(1914年):静寂が支配する。農家は非現実性を帯びる。神が臨在する。
Ⅱ 印象主義
エミール・クラウスが師となり、若い画家たちが第2世代を形成する。光を描く。“光輝主義”(リュミニスム)と呼ばれる。
エミール・クラウス「刈草干し」(1896年):光がまぶしい。逆光である。影がグリーンに描かれる。
アンナ・ド・ウェールト「6月の私のアトリエ」(1910年):女性。エミール・クラウスに私的に師事し絵を学ぶ。‘光は偉大な魔法使い’と彼女が言う。薄紫の花が明るく晴れやか。
ギュスターヴ・ド・スメット「レイエ川のアヒル」(1911年):印象主義的に明るいがアヒルがどこか不安そう。感情を描く表現主義への移行を示す。
Ⅲ 表現主義
かつて印象主義の手法で製作していた画家たちが第1次世界大戦で疎開。そこで表現主義・キュビズムに惹かれる。戦後、ラーテム村に戻ると以前と異なる様式で製作を始めた。表現主義は感情を作品中に反映させ現実を変形して表現する。
フリッツ・ヴァン・デン・ベルグ「日曜日の午後」(1924年):3人の神父が川岸に並ぶ。どこか愉快。ヴィヴィッドな色遣いはフォビズム的。そして単純なフォルムはキュビズム的。
ギュスターヴ・ド・スメット「青いソファー」(1928年)は娼婦と娼館のマネージャーを描く。それなのにどこかのんびりしている。彼は後に再び‘田園’に戻る。