季節を描く

季節の中で感じたことを記録しておく

「岩﨑家のお雛さまと御所人形」展(静嘉堂文庫美術館)2019/02/23:人のこの世での営為の価値ある遺産だ! 

2019-02-25 13:30:59 | Weblog
★内裏雛をはじめ、子供仕立てに作られた稚児雛(チゴビナ)が並ぶ。昭和初期、 「丸平大木人形店」五世大木平藏製。装束の織り・染め・刺繡、冠の金工などが精緻で豪華だ。



★江戸時代後期の作品もある。「立雛」(次郎左衛門頭)が大きく優雅。「御所人形・提灯(チョウチン)持ち」は子供のいかにも自慢げな様子が写実的だ。大型の「犬筥」(イヌバコ)の澄ました顔が愉快。(犬の腹帯同様、子孫繁栄の呪術的意味を持つ。)



★小彌太の還暦祝いの58体からなる「木彫彩色御所人形」(五世大木平藏作)は彩色も鮮やかで美しく楽しい。童子、唐子、七福神が登場。鯛車曳き、楽隊、宝船曳き・輿行列、餅つきと並ぶ。人形たち全てが小彌太の干支のうさぎの冠を被りユニークだ。



《感想》裕福な者が美術・工芸品に、つまり美のために財力を使うのは尊敬に値する。裕福な者は財力を真善美のために使うべきだと思う。「岩﨑家のお雛さまと御所人形」はこの世での人の営為の価値ある遺産だ。

「三井家のおひなさま」展(三井記念美術館)2019/02/15:「立雛」(江戸時代1815年)が大きく華麗に装飾され、呪術的力を持つのかと不安になった!

2019-02-21 10:56:57 | Weblog
巴(トモエ)印のひな人形・ひな道具が最初に展示され、印象深かった。
(1)
「享保雛」(江戸時代19世紀)が重厚。お顔が昔風だ。「内裏雛」(明治28年)は立派。いずれも大きなお雛様で存在感がある。少し怖い。
(2)
本来、身代わりに流す人形(ヒトガタ)である「立雛」(江戸時代1815年)が大きく華麗に装飾され、呪術的力を持つのかと不安になった。
(3)
「銀製ひな道具」(江戸~明治時代19世紀 )。無数に並び、賑やか。人の生活の豊かさに驚く。


「竹内浩一の世界 ―生きとし生けるもの、その美と心―」展(郷さくら美術館)

2019-01-24 22:21:58 | Weblog
日本画家・竹内浩一(1941-)氏の個展。連作「鳥獣戯画」シリーズなど。動物たちが繊細な筆致で描かれる。戯画では動物の姿の人間たちが登場し、眼は可愛さと無縁だ。また周りの空気や微風、風音、気配など目に見えない雰囲気を感じさせる。
竹内氏は「開催に寄せて」で述べる。「絵の道に入ったのは、日本画への憧れでも、描く至福のためでもなく、自己の屈折した性分をなんとしたいためだった。」「一途な日本画の制作だったが、歪な性格は一向に治らず、描いてきた絵は九識の境地にはほど遠く、ペーソスに終始した切ない絵ばかりしか描けなかった。」
※「九識(クシキ)の境地」とは、万物を貫く本性である法性(ホッショウ)が現れた覚りの境地だ。


「扇の国、日本」展、サントリー美術館(東京ミッドタウン):特に江戸時代の扇をめぐる美術・文芸の発展・普及は当時の日本人の文化的豊かさを感じさせ、誇らしい!

2018-12-14 10:13:14 | Weblog
(1)
鎌倉時代の仏教説話集には「流れつく扇から愛する人の居場所を知り、再会する」というエピソードがある。ロマンチックだ。
(2)
「扇流し図」が中世以降、多く作られた。扇の漂い流れ変化しやがて失われる姿は無常観を示す。
(3)
扇は大量生産され、流通品としては江戸時代1本3000円から数万円位の価格だった。この価格なら中流階層以上は購入可能だ。
(4)
室町時代後期には「扇の草子」も成立した。扇絵(扇面画)から和歌を当てる謎解きのジャンルだ。
(5)
扇はまた長大な物語の名場面のダイジェストを描くのに適した。さらに屛風や画帖に貼り集めればストーリーの全貌も味わえた。

《感想》扇は楽しい世界だ。特に江戸時代の扇をめぐる美術・文芸の発展・普及は当時の日本人の文化的豊かさを感じさせ、誇らしい。


「春日権現験記絵(カスガゴンゲンゲンキエ)-甦った鎌倉絵巻の名品(修復完成記念)」展(三の丸尚蔵館) 2018/10/10

2018-10-13 12:32:19 | Weblog
「春日権現験記絵」(1309年)は、藤原氏の氏神である春日神の霊験を大和絵で描いた鎌倉時代の絵巻物。藤原氏一門の西園寺公衡(キンヒラ)が制作を企て春日大社へ奉納した。絵は宮廷絵所預の高階隆兼が担当した。2004年から修復を開始し、2018年完了。日本を代表する絵巻の名品であるとともに、日本中世の信仰・風俗が細かく描かれ貴重な歴史的資料でもある。犬、兎、鶴等がかわいい。出来事・人物・情景・貴族の邸・生活・儀式等の描写が細かく丁寧だ。


巻第12第3段「恵珍夢事」東大寺東南院の僧・恵珍は、日課の春日詣中、春日社の一の鳥居前で牛車に乗った地蔵菩薩と出会った。(Cf. 春日権現は神仏習合の神であり、不空羂索観音・薬師如来・地蔵菩薩・十一面観音を本地仏とする。)

特別展「京都大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」東京国立博物館・平成館(2018/10/05)

2018-10-09 18:13:32 | Weblog
大報恩寺(千本釈迦堂)は鎌倉初期1227年創建の寺。本堂は応仁の乱にも焼けず創建時そのままのもので国宝。
◎快慶の弟子、行快作の「釈迦如来坐像」(重文)と快慶作の「十大弟子立像」(重文)が一堂に並ぶ。十大弟子の個性が分かる。知恵第一の舎利弗(シャリホツ)は釈迦より年長と言われ頭脳明晰。神通第一の目犍連(モクケンレン)は超能力を持つ。舎利弗とともに2大弟子とされる。頭陀第一の大迦葉(ダイカショウ)は清貧・修行の人。解空(ゲクウ)第一の須菩提(スボダイ)は空の真理を体得し何事にも執着しない。論義第一の迦旃延(カセンエン)は理論家で問答が得意。説法第一の富楼那(フルナ)はどのような人でも説得する。天眼(テンンゲン)第一の阿那律(アナリツ)は盲目になったが心の目で見通す。持律(ジリツ)第一の優波離(ウバリ)は戒律に忠実。密行第一の羅喉羅(ラゴラ)(ラーフラ)は釈迦の実子で修行に邁進した。多聞第一の阿難(アナン)(アーナンダ)は侍者を25年間つとめ一番多く釈迦の話を聞いた。


◎運慶の弟子筋の肥後定慶作「六観音菩薩像」(重文)
六道それぞれの衆生を救う。地獄道に聖(ショウ)観音、餓鬼道に千手観音、畜生道に馬頭観音、修羅道に十一面観音、人間道に准胝(ジュンテイ)観音、天道に如意輪観音である。

『享保毒婦伝 霞のお千代』(駒塚由衣口演、藤浦敦作)吉原中江別館金村:人殺しが法で裁かれ、また安全な社会では、好き放題に人を殺せる虚構世界が痛快だ!

2018-09-29 11:43:54 | Weblog
(1)
霞のお千代は、次々と人を殺す。悪人も善人も見境がない。平然と人を殺す。邪魔になると分かれば、手っ取り早く殺す。究極の自己中心主義。殺しの手口もプロだ。彼女は殺人技術を習わないから、生まれつきの殺人マシーンだ。またお千代は筋力も抜群。3人で5000両を盗み、やすやすと運ぶ。(1両約18g、5000両90kg!)さらに、お千代の周囲の人物たちも平気で次々人を殺す。
(2)
かくてこの作品が設定するのは、仏教の畜生道の世界だ。
(3)
だが実のところ、今の人間界も法的規制がなければ畜生道だ。嫌な時代だ。嫌な人間たちだ。人間は滅びた方がいい。存在理由がない。人間に守るべき価値があるのか?そして、この作品の世界観はニヒリズムだ。
(3)
現実の社会では、殺人が刑法で裁かれる。また日本は安全な社会と言われる。安全な社会では、好き放題に人を殺せる虚構世界が痛快だ。


特別展「縄文―1 万年の美の鼓動」(東京国立博物館):(1) 生まれてくる子どもが嬉しそうに顔を出している、(2) 妊娠し、肥っている土偶、(3)男神の男根、(4)亡くなった幼児の手形・足形

2018-08-28 09:33:50 | Weblog
(1)
大きな壺形土器の上の縁に出産する女性の顔が付け足されている。表情はあっけらかんだ。顔の前側に、壺の中空部分があって、その前側外の壺側面の真ん中、ちょうどすわった女性の足の股の間に当たる位置から、子どもがどこか嬉しそうに顔を出している。印象が強烈だった。驚いた。縄文時代、無事、子どもが生まれることは、大きなめでたい出来事で、それが隠されることなく表現されている。


(2)
縄文のヴィーナス(土偶)は、妊娠し、肥っている。子どもが生まれること、また肥っていることは、繁栄の象徴だ。


(3)
石棒は男根だ。まっすぐで元気そうだし健康そうだ。生殖、そして繁殖は、おそらく強い雄が優先だったろう。生存競争の時代だ。石棒は、権力者、強力なボスの男根か、あるいは男神の男根だ。日本の神々にとって、生殖は、讃えること、自然のことで、恥ずべきことでない。

(4)
お墓から出た子どもの手形、足形の焼き物は、おそらく亡くなった幼児のものだろう。縄文時代の親心が思いやられて、胸が痛んだ。

 『ガレも愛したー清朝皇帝のガラス』展(サントリー美術館) 2018/06/21

2018-06-25 10:39:59 | Weblog
被(カブ)せガラスが美しい。不透明の地のガラスの上に、異なる色のガラスの造形がレリーフのように被(カブ)さる。


なお、ガラスの劣化(クリズリング)には驚いた。ガラスは永遠ではなく崩壊する。清朝のガラス製品の多くが消滅した。

『シラノ・ド・ベルジュラック』(原作:エドモン・ロスタン、シラノ役:吉田鋼太郎、ロクサーヌ役:黒木瞳)日生劇場:シラノは、唯物論的哲学者であり、魔術から解放され、世俗的・理性的だ!

2018-05-27 13:02:24 | Weblog


(1)
シラノ・ド・ベルジュラック(1619-55)は、フランス、ルイ13世時代の剣術家、作家、哲学者、理学者。三十年戦争(1618-48)の時代だ。

(2)
彼は、1897年上演、エドモン・ロスタンの戯曲で名を知られる。大きな鼻に悩みながらも、一人の女性(ロクサーヌ)を胸中で恋い慕い続け、生涯を終える。騎士道精神にあつく正義感の強い男として、描かれる。

(3)
歴史上のシラノは、1639年、ガスコーニュの青年隊に入隊。1640年、三十年戦争で重傷を負い、1641年、軍隊を去る。百人を相手にして2人を殺し、7人を傷つけた武勇伝が伝わる。また彼は、科学、哲学を唯物論的に研究し、モリエールなど自由思想的文人と交わる。詩集、悲劇、喜劇、科学小説を執筆。だが1653年、材木が頭に落ち重傷を負い(陰謀かもしれない)、1655年死去する。(ただし死因は梅毒。)

(4)
劇中のシラノは、臨終のときの言葉が有名だ。彼は「心意気!」にのみ生きた。まさしく劇中では、その通りの人生だ。彼の最期の時、ロクサーヌから「愛しております、生きていてくださいまし! 」と初めて、愛の告白。しかしシラノは「お伽噺」を否定する。「<愛しています>の言葉を聞いて、醜さが消えてなくなる」ことなどない。「わたしは、一向に変わりはしない。」シラノは、唯物論的哲学者であり、魔術から解放され、世俗的・理性的だ。