「謝ってほしいんです。あのときの県警本部長に。ぼくが要求するのはそれだけです」
私は20日の午前4時に、「人質」(佐々木譲著 角川春樹事務所発行)を読了した。
この本は、昨年の12月18日発行です。
中軽井沢の図書館で借りてきました。
面白い小説だった。
私はこの作家の「笑う警官」を以前読んでいる。
札幌市市街地の藻岩山に、ラ・ローズ・ソバージュというワイン・バーがある。
そこで、最初は“監禁事件”とはいえないような監禁事件が起きた。
その夜、そのワイン・バーでピアノのミニ・コンサートが開かれる予定だった。
札幌方面大通署生活安全課巡査部長の小島百合は、
以前ストーカー犯罪から守った村瀬香里に誘われて、そのミニ・コンサートに来た。
ところが小島百合は、そこで人質立てこもり事件に遭遇する。
ミニ・コンサートが始まる前に2人の男がワイン・バーに侵入してきた。
60前後と40歳前後の男だった。
犯人は強姦殺人の冤罪で4年間服役していた中島喜美夫という男。
もう1人は、中島を支援しているという瀬戸口裕二だった。
そのコンサートの主役は来見田牧子、冤罪が起きた当時の県警本部長の娘だった。
男たちは、コンサートの邪魔はしない。始めてもいいという。
> 「妨害するつもりはない。コンサートはやってかまいません。
> ただ、ちょっと協力してほしいってだけです」
(略)
> 「ナカジ、ナカジマキミオと言います。ぼくは、強姦殺人の冤罪で四年間服役していました。
> 服役していたあいだに真犯人が見つかって、ぼくは釈放されました。無罪が決まりました」
(略)
> 富山県警で起こった冤罪事件。
> 目撃証言と状況証拠だけで、被害者の身近にいた中年の男が逮捕され、有罪判決を受けた件だ。
> 四年後に、真犯人が強姦未遂事件を起こし、中島喜美夫の冤罪がはっきりした。
> 再審となり、無罪判決、国歌賠償請求訴訟でも勝って、
> 原告の中島喜美夫には賠償金が支払われたはずである。
(略)
> 「謝ってほしいんです。あのときの県警本部長に、責任者だったひとにです。
> あのときの県警本部長、山科邦彦さんに。ぼくが要求するのはそれだけです」
(略)
> 警察官僚は、こと自分の経歴に汚点となるようなことでは絶対に謝罪しない。
> 組織として犯した誤りを、責任者として認めることはない。それは許されない。
> どうでもいい案件にだけは、いくらでも頭を下げるし、
> それで批判がかわせると思えば土下座もするが。
> だから中島喜美夫は、その娘のプライベート・コンサートが開かれるこの店にやってきた。
> 娘を通じて謝罪要求を出すために、ということなんだろう。
私は、この出だしで、この小説に引き込まれた。
私は常々、冤罪で捕まったひとの気持ちは辛いだろうな、と思っていた。
この中島喜美夫は、それで人生の大切な4年間を棒にふっている。
金にはかえられないと思う。
中島は、冤罪で4年間刑務所に入っていた悔しさをはらせるのかな、という気持ちで読んでいた。
ところが小説は、どんどん話の向かうところが変わっていく。
こういう小説はこれ以上書かないほうがいいでしょう。
書いてしまっては、これから読む方に申し訳ない。
とにかく面白いです。
ただ、「笑う警官」のほうがよかったかな?
昨夜、この九想話を書こうと思っていたが、
午後11時過ぎに仕事から帰って来て食事をしたら、眠たくなった。
ちょっと一休みのつもりで横になったら、朝になってしまった。
60過ぎて、かなしいほど“耐力”のない九想です。