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映画・演劇のレビュー

藤代 泉『ボーダー&レス』

2010-05-20 21:51:20 | その他
 この軽さはなんとも心地よい。そのくせ描いていることは全然軽くはない。その落差がなぜかかなり自然体で拘っているのは読者である僕たちの方ではないか、と思うくらいだ。在日を扱った小説で画期的だと思った金城一紀の『GO』がもう過去の作品でしかない、と思わせるくらいに、この小説のタッチは新しい。


 大学を卒業し、新入社員として社会に出た僕が出会ったなんとも独特な魅力を持つ在日コリアンのソンウ。彼ら2人の日常を淡々と綴りながらも、そこになんとも言い難い溝を描いていく。でも、これは単純に彼らの2人の友情を描く青春小説でもある。作者はあまりいろんなことに拘っていないようだ。主人公のひとりが在日であることも、ただの偶然で別にどうでもよかったのではないか、と思わせるほどにさりげない。

 それだけに終盤の展開にはがっかりさせられた。ここに至るのは必然なのかもしれないが、もう少し描き方があったのではないか。これでは前半の自然さがただ無理してただけになってしまう。決してそれだけではないはずなのだ。ソンウと在日4世の女の子のお見合いを設定するというところからこの小説は急に失速する。在日であることが彼の中でどういう意味を持っていたのかが明確になり、主人公である僕がソンウに対してうまく距離が取れなくなっていく。こういうストーリー展開はzる程度想像できたものの見せ方があまりにストレートすぎてつまらない。

 『在日』に対する考え方は以前とはかなり変わってきている。でも、今でも根強く差別はある、なんていうあたりまえのストーリーで括られてもなんか納得はいかない。その先、にあるものを、この小説は見せようとしたのではなかったのか。


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