習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

石田衣良『チッチと子』

2010-03-04 19:55:37 | その他
 一気に読んでしまった。いつもなら通勤電車でしか読書はしないのだが。なんだか止まらなくなった。この主人公に感情移入してしまった。石田衣良に、またやられた!  しかも最後ではじぃ~んときて、ちょっと泣いてしまったりもした。主人公の万年初版本作家(要するに売れない作家)、青田耕平39歳が、苦節10年、ついに直木賞(小説では、直本賞!)を受賞するまでが描かれるのだが、こういうあからさまなハッピーエンド . . . 本文を読む
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『私は猫ストーカー』

2010-03-02 23:17:32 | 映画
 こういうなんでもない映画が簡単に撮られる、そんな時代がきたのだなぁ、と改めて思う。ビデオが広まった結果、こんなフットワークの軽い作品が撮られるようになったのだ。これは今までなら、到底考えられなかったことだ。お金がかかるフイルムで撮られる劇場用映画で、この企画はない。だが、ハンディーカメラで自由自在に劇場用映画が撮られる現代ならこんなのもありになるのである。だが、1歩間違えたら目も当てられない代物 . . . 本文を読む
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戌井 昭人『ただいま おかえりなさい』

2010-03-02 23:14:28 | その他
 ただいま おかえりなさい。このなんでもないタイトルがなんだかこのお話を見事に象徴している。ふつうならこれは会話なのだが、タイトルとなった時、これはまるで一人語りのように閉じているのがおもしろい。この作品にぴったりのタイトルだ。この小説とはもちろん言えないような小話の数々には、まるでオチがない。なのに、これらのお話は、この世界ではちゃんと成立する。納得のいく話になるのだ。  これって、夢(夜に見 . . . 本文を読む
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極東退屈道場+水の会 『家、世の果ての…』

2010-03-02 23:13:25 | 演劇
 今から30年前、この芝居はとても新鮮で、斬新だったはずだ。90年くらいまでならこの作品のような芝居は、小劇場の中で、圧倒的に力を持っていた。しかし、今、こういうタイプの芝居は作られない。力で押し切るのではなく、自閉していくことで、内在化する自己の世界を手がかりにして作品が作られるようになったからだ。こんなふうに、外の世界と全身で向き合うような芝居が無くなってから久しい。  あんなにも新鮮だった . . . 本文を読む
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『夏時間の庭』

2010-03-02 23:12:08 | 映画
 とても心に沁みる映画だ。おばあちゃんの75歳の誕生日。みんなが集まってくる。一族が勢揃いしてパリ郊外の彼女の家に集まる。広大な庭と美しい自然の中にある夏の別荘。いつもなら静かなこの場所がたくさんの訪問者でにぎわう。子供たちがはしゃぐ。広々とした庭先のテーブルで、大人たちは杯を重ねる。みんながおばあちゃんにプレゼントを贈る。  パーティーが終わると、一瞬でみんなが去っていく。忙しい時間をやりくり . . . 本文を読む
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明朗会計『胡蝶』

2010-03-02 22:55:04 | 演劇
荘子の『胡蝶の夢』を題材にして6人の自殺志願者たちを描く、というアイデア自身は悪くはないが、描き方が曖昧でつまらない。これでは何が描きたいのかよくわからないからだ。  こういう話だ。生きることに疲れた男女が、ネットの自殺サイトで出会い、集団自殺を試みるが、彼らはいずれも興味本位で集まっただけで、実は本気で死のうと思っていた人は、ほとんどいない。本気で死のうと思っていた者と、そうでない者との諍い . . . 本文を読む
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ロヲ=タァル=ヴォガ 『SILVER 30』

2010-03-01 22:24:14 | 演劇
 実に面白い作品に仕上がっている。それはここには太宰治に対する明確なアプローチがあるからだ。従来のパターンではなく、新鮮な太宰像を提示する。ユダとキリストのドラマである太宰の『駆け込み訴え』を題材にしたロヲ=タァル=ヴォガ の切り口は斬新な太宰を提示することに成功している。  作、演出を担当した近藤和見さんは素材に対してきちんとした距離を取る。太宰に寄り過ぎないし、距離を置き過ぎない。ほどほどの . . . 本文を読む
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山本幸久『はなうた日和』

2010-03-01 21:55:26 | その他
 ちょっと軽い小説が読みたくて、この本を手に取った。『笑う招き猫』の山本幸久の短編連作だ。「東京世田谷線沿線を舞台に描く、ささやかな変化と希望の物語8編」と本の帯にはある。確かにそんな感じだ。主人公たちはそれぞれいろんな問題を抱え生きている。そんな彼らの問題と向き合い、ささやかな解決を提示してくれるハートウォーミング。こどもから老人まで様々な世代が登場する。  なんでもない話ばかりだ。どうってこ . . . 本文を読む
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龍・company『deep deep cheap blue』

2010-03-01 21:28:10 | 演劇
 龍・companyの3年振りの新作だ。『deep deep cheap blue』という象徴的なタイトルはこの作品世界そのままを表す。この作品が描く混沌は極めて現代的な事象なのだが、ここまであからさまに見せられたら、ちょっと腰が引けてしまう。もう少しオブラートに包み込んだ表現があってもいいのではないか。 あまりにストレートで、しかもそれが観念的な世界観の中で話が展開するから、ここから先に世界 . . . 本文を読む
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辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』

2010-03-01 20:50:17 | その他
 痛ましい。この悲痛な話と向き合うのは正直つらいことだが、ここから目を離せないのも事実だ。30歳前後の女をテーマにした小説や映画は数多く作られた。この作品もそのひとつでしかない。だが、「そのひとつ」という軽い括りをあえてさせてしまうところにこの小説の覚悟がある。どこにでもあるお話として、流してくれてもかまわない。大々的にセンセーショナルに取り上げる必要はない。だが、ここから目をそらすな、と言う。と . . . 本文を読む
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