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映画・演劇のレビュー

劇団レトルト内閣『ゴシップ』

2013-12-05 20:54:27 | 演劇
先日見たリドリー・スコット監督の映画『悪の法則』と同じように、よくわからないお話なのだ。あの映画は衝撃的だった。いつまでたっても話の全貌が見えないまま、気が付くと映画は後半戦に突入していた。そのうちだんだんわからない、ことに焦り出す。だが、終盤に至ってようやく理解する。この映画はわからせる気がないのだ、と。

 この芝居も同じように、説明は不要だ、と思っている。一応ファンタジーのスタイルを取っているけど、別にそこには拘りはない。ダーク・ファンタジーなのだが、おどろおどろしい世界を描くわけでもない。ルックスは要するに世界観を表現するための仕掛けだ。それがやりたいわけではない。

 主人公はKと呼ばれる捜査官(佐々木ヤス子)。二人の仲間とともに、この村にやってくる。彼らは村の治安を守るためにやってきたようなのだが、事件は彼らが着た後に起きる。(ふつうは事件が起きてから来るものではないか?)ここは根拠のないゴシップ(だから、ゴシップなのだが)に振り回される人々の住む村だ。黄色いスニーカーを履くと幸せになれる、という噂が流れる。村中が黄色いスニーカーだらけになる。次に赤いドレスを着た女は魔女だ、という噂が流れる。赤いドレスを着た女が殺される。あやしい人間ばかりが登場する。いくつもの謎が横行する。

 だが、この芝居はその謎に答えを与えることより、さらなる混沌へと観客を突き落とすことを、全面に押し出す。ストーリーを追いかけることより、その瞬間、瞬間のインパクトのほうを重視するのだ。村人たちが全員持つあの球体は何なのか、とか、NANAが持つ薬の謎とか、殺人の犯人は、とか、一応探偵もののスタイルにはなっているけど、事件の謎を解明することなんか、興味ない。作、演出の三名刺繍さんは、この迷宮に迷い込んだ女を通して、心の闇を見つめる。

 だが(だが、ばかりだが、というか、)彼女にフォーカスをあてるわけではない。彼女もまた、この芝居にとって、ただのコマでしかないのだ。彼女は、最初は赤い服を着て登場する。赤い服は魔女だ、という噂が流れ、振りまわされることになると、(しかも、殺人まで起こると彼女はその事件の後すぐ、黒い服に着替える、という展開も普通じゃない。彼女は主人公であるはずなのに、対立ではなく、融和しようとする。そういうキャラクター設定が、お決まりのドラマとは微妙に違う。絶体絶命の状況に追い込まれてそこからどう切り抜けるのか、とかいう普通のドラマの展開もある。だが、ラストでは、突然、この村で結婚して、ここに根付く。取り込まれる。

 三名さんがここに描く「嘘とホントの境界線にハサミを入れる覚悟」を楽しむ。噂に振り回されるのではなく、噂の渦の中でそれが心地よいものになる瞬間。それは麻薬のようなものなのか。反発し、翻弄されながら、気付くと簡単にこの世界と融和するヒロインと共に、三名さんの提示するこの世界に酔う。


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