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映画・演劇のレビュー

Nyan Presents 『Nyan SELECT 2013』

2013-12-27 20:34:35 | 演劇
ベテランから若手まで、6グループの20分以内の短編を2チームに分けて上演する。そこにNyanの主宰であるヤマサキケイコさんの劇団TCNの作品も加えてトータル7団体の作品を見る。Nyanが用意した舞台空間を利用して、それぞれが自分たちの個性を生かして自由な発想をする。照明は極力抑えて、ほぼ闇に近い空間に屹立する3枚の巨大な透明な板(吹き抜けになっている3階部分にまで届く)が舞台装置だ。それは『2001年宇宙の旅』のモノリスか、と思わせる。(なんて、ね)そこで、2人芝居(あるいは3人芝居)が繰り広げられる。

一番おもしろかったのは、ケムリノケムリ『氷水のスープ』だ。保木本佳子さんらしい優しい世界が描かれる。でも、かなり怖い話なのだ。しかも意外にもストーリー重視の作品になっているし。2人の関係性が徐々に明確になっていくさまがスリリングに描かれる。自殺しようとしていた男と、それを見ていた女。紐を持つ男と箱を持つ女。なぜ、そういうことになったのか。話はとてもわかりやすく、でも、どんどん引き込まれる。そして、ドキドキさせられるようなオチが付く。家族の在り方についての、ある種の答えすらここには見える。切れのいい短編の傑作。

さんてんとうりつ『アクト・ゼロ』は女3人によるおしゃべりのような軽さがいい会話劇。劇団野風僧『青い水槽の青い金魚』は濃くて、激しいダンスパフォーマンスを中心にした。どちらも自分たちの個性を前面に押し出して、魅力的な舞台を提示しているけど、そこまで、だ。たぶん長編でならもっと面白いことが、出来るのだろうけど、短編の良さが生かされていない。これではプレビューにしかならない。


その点、同じプレビューでも、劇研「嘘つき」は、長編作品として書かれた台本をエッセンスだけを残して再構成したというとても大胆な作品で面白い。(作、演出、主演の伊藤昌弥さん本人が言うように、話自体はこれではさすがに「よくわからない」ものになっているけど。)いくつもの断片を提示してその底に漂うものを伝える。ダイジェストにはしない。この敢えてよくわからないものを作るという試みは成功している。少しわがままだが、こういうことも短編でなら許されるのではないか。伝えたいのはお話ではなく、想いだ。2人の女が出会い、語り合う。雪女と魔女が言葉を交わす。だが、ファンタジーではない。ただひたすら暗くて重苦しい。大津の中学校で起きたイジメによる事件を扱う。いきなりなので、終盤のそういう展開に、えっと、思う。教師の後悔が作品の根底にあるようだ。出来ることならオリジナル版を見てみたい。

初めて見たターザンボーイの作品は、とても楽しくてかわいい作品で、好き。『ソルト娘とシュガーパパ』というタイトルからして、かわいい。身の丈にあった小品を提示する。母が旅行に出たため、2人きりになった父と娘。気まずい夕食の風景。お互いの思いやりが、しっかり伝わってくるハートフルコメディだ。演じる2人のキャラクターがしっかりしていて、見やすい。

Pourri bebe『冬の海で逢いましょう』というタイトルにも心惹かれる。青年は祖母のくれた水中メガネを持って海にやってくる。大好きだった祖母との別れの儀式。海に来たのは祖母の遺灰を撒くためだ。彼が出会ったへんな女は、彼から水中メガネを取り上げ、なかなか返さない。彼女は自分を海女だという。そんな2人のやりとりが描かれる。もしかしたら彼女は死んでしまった祖母の若き日の姿なのかもしれない。海の向こうのキラキラ輝く光をみつける。なんでもない小さな時間。2人がここに一緒にいて、そして何かを語り合う。それだけの時間が愛おしい。

 最後に、特別枠のTCNのファンタジー『迷子の子猫ちゃん』。これも同じだ。記憶を失った子猫が、不思議の国に迷い込み、そこで光と闇の妖精と出会い、失ったものの大切さを知る。それだけの話を丁寧に見せてくれる。作り手の気持ちがちゃんと伝わってくるのがいい。

 20分は長くはないけど、決して短いわけでもないことを教えてくれる。今年も、年末のこのイベントはとても刺激的で、Nyan らしい作品が揃った。


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1 コメント

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Unknown (keke)
2013-12-29 16:23:29
先日は暮れのお忙しい中お越しいただきありがとうございました。ケムリノケムリの作品を気に入っていただけたようで、素敵な感想もいただきまして、とても嬉しいです。
ケムリノケムリは来年も更に活動の幅を広げていこうと考えておりますので、今後とも温かく見守っていただけますとありがたく存じます。どうぞよろしくお願い致します。

ケムリノケムリ
保木本佳子

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