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映画・演劇のレビュー

風森章羽『私たちは空になれない』

2022-03-03 09:25:50 | その他

初めて読む作家だ。表紙とタイトルだけで読むことを決めた。内容も傾向もまるで知らないまま、読み始めたのだが、第1章を読み終えたところで、これは面白いかも、と期待した。なんだか不思議な感触の小説でこれは何を描こうとするのか、よくわからないし、でもそこが見えてこないというところが嫌ではなくいいな、と思った。惹きつけるものがある。ふたりの男女の視点が、交互になりお話を展開してく。

だが、それが第2章で短編連作スタイルが明確になり、女子高生のアテナと七尾によるレンタル役者の話としての構造が明確になったところで、つまらない、と思った。わかりやすいある種の定番に落ち着くのかと思ったからだ。それはレンタル役者を依頼してくる人たちの巻き起こす事件に挑む2人のお話だ。斬新に思えたレンタル役者、という設定は微妙で説得力はないが、必ずしもそこが描きたいわけではないようで、4章から最終話である5章に至り、ふたりの秘密が前面に出てくるのだがこちらのほうが本題で結局は長編小説の体裁になる。そこがどういう形で決着がつくのかは少し気になるから、最後まで読むことにした。

20年ぶりで再会した幼馴染である天海の営む写真館を介してお話は綴られる。お話のバックグラウンドは明確で安心して読める。1話完結短編連作という定番を踏まえそうになるが、5話からなるお話は、2,3話で定番に流れるがその後、一気に結末へ向けて変容し、ふたりの過去へ突き進むのは先に書いたとおりだ。

意外な変化球の展開だけど、なんだか全体のバランスは悪い。アテナが実はj女性ではなく男性だったというオチにはあまり驚かない。ただアテナだけではなく、七尾のオチが同じというのはなんだか都合がよすぎて安易に見えた。同じような過去を持つから惹かれあうなんて、なんだかなぁ、である。死んだ姉の身代わりとして生きることを義務付けられた少女の憂鬱。5歳で死んだ兄の身代わりとして生きなくてはならなくなる青年。あまりに話ができ過ぎなんで、さすがにそれはないだろ、と思った。これでは乗れない。自分らしく生きるのが大事というのはもちろん正しい。だけどそこが落としどころではない。


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