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映画・演劇のレビュー

関口尚『サニー・シックスティーン・ルール』

2018-03-21 21:30:12 | その他

 

耳の不自由な女の子がカメラで生きていこうとする姿を描く。耳の分まで目で補い、目によって世界を表現することで、生きていく力を見いだす。そんな女の子にひっぱられて、今まで言葉で世界を見てきた男の子が同じようにカメラで世界を切り取り表現するという術を手に入れる。言葉の世界(文学)で挫折した彼はカメラという映像と出会い、しかも、ムービーではなくスチルで、世界を切り取り、自分を表現することを知り、新鮮な驚きを感じる。

 

そんなふたりの姿を男の子の目線から(彼を語り部として)みつめていく。24,5歳という微妙な年齢。彼女は今、新進カメラマンとして認められようとしている時期。彼はまだ、カメラを手にしたばかり。これから写真と本格的に向き合っていく時期。でも、彼は彼女に負けたくはないと思っている。2人はライバルであり、やがて恋人同士になる。

 

関口尚はそんな定番のお話をただのラブストーリーにはしない。彼らの周囲に3人の写真仲間を配して群像劇としてみせていく。5人をしっかり描くことで400ページに及ぶ、長いお話を編む。2人と同世代の男の子、30代の既婚女性、50代の男性という布陣だ。この組み合わせがとてもいい。いろんな世代の視点から2人の今が提示されることになる。彼らのすべてがぎっしりとつまった物語だ。最終的のふたりが別れていくことになるのだが、それがサラリとしたタッチできちんと描かれてあるのもいい。青春の一時期、一番大切な時代、何を考え、何を求めたのか。それがしっかりと描かれた秀作である。

 


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