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映画・演劇のレビュー

佐川光晴『おれたちの約束』『おれたちの故郷』

2015-05-27 20:26:57 | その他

『ぼくのおばさん』シリーズの第3作、第4作を連続して読んだ。先の2作もよかったけど、今回は成長した2人(陽介と卓也)を描くため、それぞれ別々の場所に身を置くふたりを交錯させない。しかも、3作目は、まず魴鮄舎(ほうぼうしゃ)を出て、高校生になった陽介を通して、距離を置いた視点から、改めて、自分にとって魴鮄舎は何だったのか、が描かれる。この2冊で彼らは16歳から17歳になる。4作目でようやく卓也のエピソードも描かれる。だが、このお話にとって、ふたりの存在は背中合わせだ。コインの裏表で、どちらかだけでは意味をなさない。

さらには、この作品は震災と津波によって壊滅的な打撃を受けた東北を描く。しかし、敢えてそこで、これが小説でありフィクションであることを強調するために、震災を2011・3・11ではなく、曖昧にした。東日本大震災という固有名詞をドラマの中に安易に組み込むのではなく、まずは独立したこの作品を大事にした。しかし、そこは避けて通れない。まずお話を優先するため、震災を3月ではなく9月に設定するのは大胆だ。しかし、そこは確信犯である。文化祭という彼らにとって大切なイベントに震災を取り込んだのだ。個の問題と世界の問題とをリンクさせる。


第1部完結編となる第4弾『おれたちの故郷』では耐震工事を巡って、魴鮄舎の存続の危機が描かれていく。自分たちにとって魴鮄舎は何だったのかと、問い直すことは、自分とは何か、という問いかけにもなる。生きていくとはどういうことか。そういう本質的な部分も含めて、この作品が問い質すものは、尊い。

恵子おばさんの問題を中心に据えて、彼女を描くのではなく、周囲のみんなが彼女をどう思い、どう考えるという地点から描こうとする。お話はおばさんからどんどん離れていく。それは彼らがもうこの児童養護施設を卒園したからだ。だが、当然のこととして、彼らと魴鮄舎を巡るお話はまだまだこの先も続く。


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