打ち上げ花火に魅せられて、花火のように生きた男の生涯を描く。明治の御代に生を受け、大地主の家の次男坊として育ち、でも、母親が後妻だから家督を継ぐわけでもなく、それを残念に思うこともなく、まるで何も考えないように生きた男のお話。みんなから馬鹿者呼ばわりされ、でも花火が好きだから花火にうつつを抜かす。やがては持っていた家屋敷も失う。
彼はその50年ほどの人生を花火のように生きたのだろう。ぱっと咲いてすぐに消えていく。一瞬の出来事。そのために莫大なお金と労力を注ぐ。ギャンブルとか女とかのために身代をつぶすというのはよくあるパターンだけど、花火で、というのは始めてだろう。江戸時代から明治へと大きな変化の時代を生き、そこで世界がどんどん転換していく様を目撃し、でも、そこに流されるのではなく、自分の道楽のために生きる。彼にとって花火は道楽ではないけど、周囲にとってはとんでもない道楽だ。だが、周囲はそれを許す。彼はただ流されるように生きるだけ。真面目だけど何の欲もなく、与えられた物をただなんとなく、出来る範囲でこなす。何のために生きているのだか、わからないほどだ。ただ、花火だけは好き。花火に人生を賭けるとかいうわけではない。自分の花火を見たいだけ。だから、自分の好きなときに好きなだけ、河原で花火を打ち上げる。村人たちはそれを見て、あぁ、またやってるよ、と思う。誰かに感謝されるわけでもなく、ただ、自分のために打ち上げる。
花火職人になる話ではないところが、普通じゃない。きれいなものが見たいだけ。だから、これでは趣味でしかない。凡人というしかない。バカだし。でも、そんな彼の生き方が最後まで読むと、胸に沁みる。誰かに褒められたいとか、評価されたいとか、そんなのじゃない。ただ、好きだから、それだけでいい。それで人生を全うできたなら、それはそれで幸せではないか、と思う。