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映画・演劇のレビュー

小川糸『キラキラ共和国』

2018-02-09 22:59:16 | その他

 

『ツバキ文具店』の続編がこんなタイトルであることに驚く。最初は気付かなかった。噂で続編が出たことを知り、探したらこのタイトルを見つけて、でも、そんなはずはなかろう、と最初は思った。でも、確かにこれでいい。これがあのお話の続きだ。

 

鳩子ちゃんが結婚してからのお話である。だから最初から彼女はとても幸せそうだ。読んでいる僕もうれしい。前作は少しずつ彼女が幸せに気付いていくという話だった。その少しずつ、というのがよかった。何かがあって急に幸せになるのではない。代書屋なんていう風変わりな仕事を祖母から受け継いで、訪ねてくる同じように一風変わった人たちと過ごす中で彼女は変わってくる。この仕事を大切に思い、祖母の想いを汲み取り、鎌倉で暮らす。

 

鎌倉という少し風変わりな場所の魅力も相乗効果で、この小説は不思議な気分にさせてくれる。ちょうど初めて鎌倉に行った直後くらいにこの本を読んだことも影響している。鎌倉という町のたたずまいがとても気に入った。あまり観光客がいない日に行ったのもよかった。3年前、娘の結婚式の後、1日鎌倉で過ごした。のんびり観光した。妻と2人で、ぶらぶら歩いた。なんだか、とても寂しくて、でも、幸せな気分だった。何かが終わって、何かが始まる。それでいい、と思った。

 

『キラキラ共和国』は4話からなる。(前回もそうだった。1年のお話だ。)2話目でミツローさんの田舎に帰る話になる。四国の高知の山の中。初めて彼の両親に会い、挨拶をしてくる4日間の話だ。小説の舞台が鎌倉から初めて離れることになる。淡々としたタッチの前作とは少し趣が変わる。ここまで読んで代書屋の話(読み切り短編連作スタイル)ではなく、レギュラーシーズンを終えたヒットドラマのスペシャル版の趣。番外編とか。続編という感じじゃない。そこが少し残念な気もするけど、それはそれで仕方ないかな、とも思う。ひとりぼっちの女の子のお話だったのに、家族のお話になってしまった。彼女自身は変わらないけど、環境が変わった。それで小説もこんなふうになる。それだけ。

 


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