
コロナ禍の影響から何度となく公開延期を繰り返しあれだけ気合いを入れて作った大作時代劇なのに結局まるで興業的には振るわないまま劇場から去ってしまった前作『峠 最後のサムライ』から2年。小泉堯史監督80歳の最新作である。今回は完成から短いスパンでの公開になった。反対に宣伝が行き届いていないのではないか、という不安もある。
地味な映画である。思った以上に小さな話だ。だからよかったと思う。命をつなぐ。ただそれだけにすべてを賭ける町医者。無謀なことも承知の上で、だけど今これをしなくては自分が生きてきた意味はない、とすら思う。傲慢と背中合わせかもしれない。だけどそれが何より大切だと思う。これは大沢たかおの代表作『仁 JIN』を思い出すような作品である。種痘の接種を広めて疱瘡の病を克服するために戦う。もちろん、いかにも小泉堯史監督が好きな題材であろう。デビュー作『雨あがる』も想起する夫婦愛を描く映画でもある。
興業的には厳しいと思うけど、今これをどうしても作りたかった。小泉監督の映画への純粋な想いがスクリーンから溢れてくる。そんな誠実な映画だ。爽やかな涙が溢れてくる良作。主演の松坂桃李が素晴らしい。