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映画・演劇のレビュー

コメディユニット磯川家『今宵はグッドファルス』

2009-05-19 21:51:44 | 演劇
 これは確かにおもしろい、と思った。初めて見る磯川家は、予想に反しておしゃれで、スタイリッシュ。もっと泥臭くてドタバタだと思っていた。先入観でものを見てはならないと改めて思う。

 単なるドタバタなら、僕は何とも思わない。だけど、これはそうではない。確かにバカはしている。つまらないバカをして笑わせてくれてはいる。だが、ただのバカではなく、死というものをきちんとみつめる確かな視点がここにはある。だからバカをしてても信じれる。

 お通夜を舞台にしてくだらないギャグで笑わせるのではない。通夜をまるでテーマパークのようにとらえて、そんな中で故人との思い出をしっかり噛み締めていく。別れたくないけど、もう今夜が最後だから。死者とともにここで遊んで過ごそうよ、というスタンスがこのコメディーの底には流れている。

 降り止まない雨の中、久々に親族が集まりおじいちゃんを偲ぶ。主人公は僕(斉藤コータ)と妹(物延結)。2人のやり取りからスタートする。ものめずらしい葬儀場の中で一夜を明かす。コータが「ここって広い!」と感動してはしゃぐ場面がおかしい。おいおいお前はもう充分大人だろ、こんなところで喪服着てそれはないだろ、と思う。だが、そんな無邪気なはしゃぎ方がこの芝居の基本トーンを形作る。明日は告別式でおじいちゃんは焼かれてしまう。もうこれで完全に最期だ。それまでの時間を彼らは楽しもうとする。そんなシチュエーションを芝居はシリアスに描くのではなく、ドタバタ騒動の中、笑わせながら見せていく。

 不条理なネタ(ここで働く探偵を気取った松田優作と、ここに忍び込んだ2人のこそ泥)も入れながらやけにハイテンションだったりする登場人物が織り成すドラマは幾分歪でそれが基本はリアルを踏まえているため、全体が不思議な感触を残すこととなる。

 みんなで集まり、おじいちゃんと一夜を過ごす時間はドキドキするような非日常な冒険に満ち溢れる。久々に会った幼なじみの従兄弟は初めて会うくらいに大人に成長していて、でも一緒にいるうちになんだか親友みたくなっていく。おばあちゃんが居なくなり、さらにはおじいちゃんの遺体が消えてしまい、大騒動。憧れだった有名女優の叔母さんや、ラブラブの両親、葬儀社の人たち、みんなを巻き込んで、「終わらせたくない夜」が更けていく。

 大はしゃぎするところも、ギリギリのところで抑制が効いていて、見ていて白けることはない。ちゃんと安心して笑っていられる。作、演出の保木本真也さんはセンスがいい。役者陣も適材適所でうまく収まる。両親を演じた緒方晋と本多真理が上手い。もちろん全体がすばらしいアンサンブルを見せる。クールな芝居なのである。そこがこの作品に於いて一番いいところだろう。

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