習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

湊かなえ『告白』

2009-05-20 19:40:32 | その他
 ようやく読み始めた。なかなか図書館では手に入らなかったからだ。今年の本屋大賞を受賞した新人作家による驚きのミステリーらしい。評判に違わない。読んでいて夢中になる。ページを繰る手が止まらない。思わず電車を乗り過ごしてしまってあせったほどだ。
 
 今ようやく最後まで読んだのだが、残念ながら前半の勢いは後半になってなくなる。だいたい第1章(『聖職者』)だけで完結した短編なのだ。なかなかよく出来た話でオチも怖い。続く第2章(『殉教者』)では主人公が変わり視点が変わることで事件の後日談ではなく、これがしっかり長編としての構造を持つことが提示される。全く新しい別の人物の目(クラスメートの少女)で語られるもうひとつの話のその後は、さらに次の視点が用意される。第3章(『慈愛者』)で事件の犯人の母親の視点へと受け継がれるのだ。しかも、それが犯人の姉によって見つけられた母の日記を通して描かれるという手の凝りようだ。次々に別の視点を提示し、重層的に事件の本質に迫るというスタイルは別に目新しいものではない。だが、構成の妙と、繰り返しではない事件を伸展させていくスピード感によって意外性をどんどん深める作り方は上手い。描かれる事件自体のおぞましさ、胸クソが悪くなるような物語だが、実におもしろくてどんどん引き込まれる。

 だが、残念ながら、そこまでだ。後半である第4章以降(ここからは書き下ろしらしい)は、ただの説明に堕す。それと安易なオチ。2人の犯人の少年のそれぞれの内面の声を描き、事件の核心を描くはずが、どうしてこんなにも安っぽいドラマになるのだろう。さらにはもう一度主人公である女教師の視点に戻ってきた第6章(事件の解決編となる)のつまらなさ。どうしてこんなエンディングに収束させたのだろうか。前半のドキドキするようなおぞましさと、ザワザワするような不気味さ。それをどうして持続できなかったのか。今という時代を生きる子供たちの空虚な内面をリアルに切り取っていたはずなのに。これではただのマザコン少年たちの話でしかないではないか。がっかりした。

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