ロン・ハワードの最新作である。なのにこれが劇場では見られない。アマゾン配信だけでの公開なのだ。これだけの大作でしかもこんなにも凄い力作。もったいない話だ。これは同じように実話の映画化である彼の『アポロ13』に匹敵する作品だ。(「13シリーズ」というわけではないけど、どちらも「13」という不吉な数字がタイトルに入っている。)
それだけにこれは絶対劇場の大スクリーンで見るべき映画だったと思う。どうしてこういうことになるのか、理解に苦しむ。膨大なお金と労力をつぎ込んで作った映画がこんなふうに消費されるなんて悔しいではないか。洞窟内の暗さや圧迫感は劇場の暗闇でこそ緊張感をもって伝わるはず。しかも2時間半の大作だから映画館のふかふかの椅子に身を潜ませて見たかった。残念でならない。
冒頭の少年たちのサッカーのシーンから洞窟に遊びに行くまでのほのぼのとした描写から一転して、一気に本題へと突入する。タイで2018年に起きた事件の映画化。12人の少年たちと彼らのコーチの計13人が大雨のため洞窟の中に閉じ込められてしまう。いかにして彼らを救出するのかが描かれる。実話だから事の顛末はすでに知っているはずなのに、見ていてドキドキが止まらない。次から次へと難題が押し寄せ、救助は進まない。世界中からたくさんの人たちが救出のために訪れる。英国から来た2人のダイバーが主人公になり、彼らを中心とした救助活動がドキュメンタリータッチで描かれていく。
よくぞまぁ、こんな困難な映画を作れたものだと驚く。事件現場を再現するだけでも大変だっただろうが、それを映画として撮影し、まるで事件の現場に居合わせたようなリアリティで見せきる。よくあるハリウッド映画のような大げさな感動を誘うヒューマン映画とは一味も二味も違う映画だ。ロン・ハワード監督はあえて感動的なドラマを作ろうとはしない。徹底してドキュメンタリーの姿勢を貫くことで臨場感を伝える。この事実の記録の映像化に徹する。それをドキュメンタリーでは不可能なリアルさで見せる。圧倒的なビジュアルはハリウッドお得意の特撮技術によるものではなく、役者たちが実際に体を張って見せるのだ。素晴らしい映画だ。そしてここには映画ならではのとんでもない体験が待っている。