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映画・演劇のレビュー

劇団ひまわり大阪公演部 『生命の王』

2016-05-26 23:55:35 | 演劇

このあまりに単純なお話をストレートに見せる。あっけない内容。それを演出もそのままで見せるから、芝居は単調になった。1時間50分が長く感じられる。オリジナルの改変をしないのなら、もっとテンポよく見せなくては、今の観客には飽きられる。正しいことを正しいまま言っても、観客の胸には届かない。せめて、演出はもっと「ずるい見せ方」をすべきだった。(でも、それじゃぁ、どうすれば、ずるくなる、と聞かれたら、上手く答えられないけど)もちろん、木嶋さんのアプローチがダメだというのではない。

 

今から90年前に作られた芝居をリメイクする。文豪、武者小路実篤によるメッセージ色の濃いストレートな戯曲を敢えて今の時代にぶつけてくる。そこから何が見えてくるのか。台本自体は圧倒的につまらない。もともと、武者小路は単純すぎて、小説ならまだいいけど、ひねくれた表現でもある舞台では、余程上手く作らなくては成り立たない。そこで木嶋さんはオリジナルの精神を大事にした。

 

太陽と月が人間の営みを考える。彼らは人間という生き物の生態を描く劇を見ることで、人間を知る。マクロの視点からミクロの営みを見る。この世界の成り立ちをさぐる。関東大震災から3年後に書かれた作品で震災からの復興もままならぬ当時の人たちを励まし、未来に目を向けさせるために作られたものらしい。ささやかな人の営みなんて神の視座から見ると取るに足らない。しかし、彼らにとってつまらない生き物たちでも、みんな必死に生きている。そんな当たり前にことをしっかり伝えようとする。これはこれで意味のある作品だとは思う。ただ、それを今の目で見た時、何が見えるのか、そこが肝心なところだ。だが、あまりに単純すぎて、腰が引けてしまう。

 

間に入る詩人と作家がこの世界の現実を提示することで何を伝えようとしたのか。そこをもう少し明確に出来たなら、作品には奥行きが出来たはずなのだ。残念。

 

 


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1 コメント

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ありがとうございます (木嶋茂雄)
2016-05-29 12:27:00
広瀬様
まったくもって的を得た劇評、ありがとうございます。
今の時代の「真実が隠ぺいされ、嘘が平気でまかり通る」ともすれば「嘘が真実に変質していく」という時代にあって、武者小路実篤のあまりにもストレートで単純で現実離れした理想を堂々と語るというこの作品の「愚直さ」が、逆に現代ではもっとも必要で、欠落している事なんじゃないかと考えて、取り組みました。
広瀬さんのいう通り、理想と現実をつなぐ「詩人」「作家」が、もっと乾いた視線を保ちながら逆に理想を痛烈に批判しているという姿勢が表現できれば、この作品はもう少し奥行ある仕上がりになったであろうと思っております。そこは俳優の語る力と演技力や舞台での存在感の示し方に賭けた部分がありますが、そこが弱かったことは否めません。
なんのドラマ性もない戯曲をどのようにドラマにしていくのかを考えて作業しておりましたが、中途半端で終わってしまった感があります。逆に今後、克服すべき課題が明確になり、劇団員一同、もっと研鑽を積まねばならないと思っております。「親の顔がみたい」以来、久しぶりのアイホールでの演出でしたが、残念です。(親の顔。は実は私が演出しておりましたが、諸事情で演出とは明記しませんでした)
この度は、貴重なご意見ありがとうございました。今後ともどうか忌憚のないご意見を頂きますようお願い申し上げます。お忙しいところわざわざ足をお運び頂きありがとうございました。広瀬さんのアドレスがわかりませんので、このコメント欄にお礼を記載させていただきました。
木嶋茂雄。kishimashigeo@gmail.com
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