
タイトルは吉本と遠野を合体させたもの。要するに吉本ばなな版『遠野物語』だ。言わずと知れた柳田國男の名作へのオマージュである。吉本ばななの書くちょっと怖い話を集めた短編集。短いお話がしっくり伝わってくる。怪談話というよりは死を巡る切ないお話。いろんなものが見えてしまう。幽霊とか妖怪とか死者たち。会わなくなった人。彼らはどこかで今も確かにいる。読んでいて怖いというよりなんだか懐かしいし、優しい気分になる。
ただ、唯一少しだけ長い『光』という実話だけはなんだか好きになれない。実名で吉本ばななの知人が登場するのも嫌な気分になる。自殺したAさんの話。吉本ばななはこれは他の作品とは異質だが、「書かないわけにはいかない」と書いているけど、作品からは彼女のそれだけの強い想いが伝わってこないし、後味が悪い。
他の12篇は好き。どれも気分がいいくらいに短くて、わかりやすい。読んでいても、そこにいるものたちの姿が見えてくる。ラストに配された『思い出の妙』のおじさんも怖いけど、懐かしい。