
城定秀夫の新作だ。先月公開の新作『愛なのに』に続いて2が月連続で一般映画のフィールドに登場する。彼はピンク映画界では気を吐いていたようだが、まだ一般映画では傑作をものにはしていない。それだけに今回の作品はそんな彼のちょっとした勝負作だったのではないか。(僕は『アルプススタンドのはしの方』は買わない)これは彼の力量が問われる作品だ。
さて、そんな本作なのだが、お話はとんでもない設定で、とてもじゃないが、不可能な完全犯罪を目論む。お話自体がもう無理無理なのだ。だいたいこの無謀な計画を実現させるために9年もの時間をかけるだなんてありえない話だろう。それに、こんなにもうまく条件が整うわけもない。すさまじい執念だ。でも見ながら「ありえないわぁ、」と思う。でもそれでシラケるかというとそうでもない。「もしありえたなら、どうなるか」と、それなりには緊張感が持続するから、見ていて退屈はしないし、投げ出さないで見ていられる。でも、さすがにこれでは残念だが「ドキドキする」というところにまではいかないけど。
田中圭がこの変態男を、気持ち悪いけど、それなりにリアルに演じている。ただ、狂気が本気になっていく過程がもう少し緻密に描けていたなら、よかった。これでは怖くない。(もちろん笑えない)彼を助けようとする大島優子演じる元恋人で、臨床心理士にも、もう少し説得力があればよかった。スクールカウンセラーとして赴任とか、なんだか都合よすぎるし、彼女が彼に拘る理由も描きこみが浅すぎる。彼女の彼への執着が田中の変態さと拮抗していたなら、『羊たちの沈黙』のような緊張感が描けたのかもしれない。
全体のお話の展開にも説得力が欲しい。登場する高校生たちの異常さも含め、作品全体をもっときれいにレイアウトできたならこの虚構の世界に酔えたかもしれない。ここには絶対必要な不気味さが足りないのだ。せめて心意気だけでも『ナイトメア・アリー』のデルトロ並みの完璧な映画を目指して欲しかった。ビジュアルや、お話も含めて、細部の作りが甘すぎるし、映画全体に怖さが足りない。