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映画・演劇のレビュー

吉田修一『路 ルウ』

2013-03-28 10:38:33 | その他
 これを一刻も早く読みたかった。でも、諸事情からなかなか読めないでいたのだが、先日ようやく手にした。もちろん速攻で読んだ。読み始めると、読むのが惜しい気分にさせられた。それくらいに心地よい。でも、3日で読み終えてしまった。もったいない。

 吉田修一が台湾をどう描くのか、興味津々で、読みだしたのだが、思った通りの心地よさで、なんだか台湾にいる気分。日本人の感じる台湾の魅力を無理なく、リアルに捉える。台湾に新幹線を走らせるというお話を背景にし、台湾人の青年と日本人の女性とのお話を中心にして、更には様々な人たちのドラマが並行して描かれていく。だが、これは恋愛小説ではない。これは、まず日本と台湾の話なのだ。2つの国が舞台になるというのでもない。それぞれのお話の方が背景になる。新幹線を作るための『プロジェクトX』的な感動ドラマでもない。日本人にとっての、台湾。台湾人にとっての日本、それが描かれるのである。

 初めてホウ・シャオシェンの映画を見たときからずっと台湾が好きになった。『坊やの人形』というオムニバス映画だ。その後『童年往時』が公開され、そこに描かれる懐かしさに心魅かれた。初めて台湾に行った時、故郷に帰った気分になった。映画で見た台湾と同じ。今の日本にはない大切なものがそのままそこには残っている。そんな気にさせられた。何度でもそこに帰りたくなる。

 ここで描かれる台北から高雄まで1時間半で走る新幹線を作るというプロジェクトに関わった人たちのお話は、その難事業の完成を目指す苦難の歴史を描くのではない。台湾という天国のような場所に囚われていくひとりの女性の姿を通して、人間にとって何が一番大切なのか、が描かれる。日本や韓国や中国が失ってしまった(あるいは、今、失おうとしている)もの。それが、ここにはある。だから、何よりもそれを大事にしなければならない。

 偶然、淡水で出会った2人。そのたった1日の出会いが永遠になる。やがて、台湾人のエリックが日本に来て、日本人の春香が、台湾で暮らす。この2人のお互いの片想いは、日本と台湾の恋愛として、この小説の中で描かれていく。その先はまだ見えない。だが、お互いを大事に思い、それぞれの場所で生きていく。これを読んでいると、また、台湾に帰りたくなった。(自分で書いていてなんだが、「行きたくなった」と言わないところが、また、くさいですね。)

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