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映画・演劇のレビュー

『隠された記憶』『プルートで朝食を』

2006-12-30 11:05:02 | 映画
 ①『隠された記憶』
 『ピアニスト』から5年。待ちに待ったミヒャエル・ハネケの新作がひっそりとやって来た。たった2週間。テアトル梅田で公開された作品である。(うち1週間はレイトショーである)

 ハネケの新作は2大スターを使いながらも相変わらず派手ではない。全編謎だらけで、その謎も解けないまま終わっていく。

 幼い頃のいじめの記憶が40年の歳月を経て甦る。いじめられたことではなく、いじめてしまったことである。完全に忘却の彼方にあったものが、よみがえる。

 ある日、送られてきたビデオ。家の前に据えられたカメラで撮られた映像が延々と続く。いつもおまえを見ているというサインか?それを皮切りに様々なビデオが届く。徐々に核心に迫っていく。隠されていた秘密とその記憶。彼が暮らしていた田舎の家の映像。幼い頃の出来事。そして、その相手の現在住む家までの映像。誰がこんなことをするのか。

 子供の頃の何気ない(でも本人には切実なことだった)悪意からの嘘。それによって傷ついた男と、彼を傷つけたことすら忘れていた自分。犯人はその男なのか。何が目的なのか。復讐?ゆすり?だが、相手からはその後何も言ってこない。

 ある日、息子が帰ってこなかった。震える。誘拐か。そうではない。無断で友人のところに泊まりに行っていただけだ。彼は精神的に追い詰められていく。

 40年ぶりに会ったあの男が、自らの潔白を証明するために自殺する。男の息子が彼を訪ねてくる。このシーンが凄い。ただ、2人でエレベーターに乗っているだけなのに、衝撃的だ。何も起きないし、何も話さないのに、こんなにも怖い。

 この映画には犯人探しはない。事実として描かれたこの出来事を通して、心が揺れていく。ただ、それだけである。それ以上のものは何もいらない。


②『プルートで朝食を』

 ニールジョーダンの新作は、70年代を舞台にして、アイリッシュの若者が、自分を捜す旅を描く。生まれてすぐに教会の前に棄てられ、貰われた先で、成長するも、自分は本当は女なのに男の体で生まれてしまったことに気付き、女として生きていこうとする。だが、周囲の差別と偏見は凄まじい。そんな中、彼女(彼ではない)はめげることなく、生き抜いていく。

 30以上のチャプターが用意され、めまぐるしいスピードで彼女の駆け抜けた日々が描かれていく。あれよ、あれよ、と思う間もなくラストまで。2時間9分があっという間の出来事である。快いアップテンポのリズムはすばらしく、自分の本当の父親が誰かを知り、見事母親にも再会し、自分自身を全うしていくまでが、感動的に描かれる。何事にも屈せず、凛として生きていく姿が美しい。

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