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習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『愛おしき隣人』

2008-05-23 20:28:32 | 映画
 ロイ・アンダーソン監督のオチのないショート・ストーリーのつみ重ねに、まんまと乗せられていく。けっこう長まわしする。ずっと待っている。なのに、何も起きない。そんなシーンが続く。またかよ、と思う。なのに腹は立たない。何も起こらないエピソードの羅列が、なぜか、心地よい。

 なのに、「どうせ、なにもないだろ」と高を括っていたら、とんでもない感動が突然やってきたりもするから、タチが悪い。いつものバーに少女がやってくる。彼女が話し始める。大好きなギタリストと結婚する夢を見た、と。あのシーンの衝撃。でも、あれって、夢の話だから、凄いことが起きても、本当の現実ではない。しかし、それをしっかり映像として見せられたとき、やはり驚く。

 結婚式の後、家に帰ってきた2人を延々と長まわしで見せる。ただ2人の姿を映すばかりだ。そのうち気付くことになる。窓の外の景色が動いている! そして、夜が徐々に明ける。外が明るくなったとき、ずっと動いていた家が駅のホームに入り、たくさんの人々が2人の祝福に駆けつける。この映画で最高に瞬間がそこにはある。

 この映画に出てくる人たちはみんなままならない毎日を生きている。ひとつひとつのエピソードは先にも書いたように全くオチがなく、その事実に毎回意表を衝かれる。そこには、何もないからである。そんな意味にないエピs0-ドの数々をしっかり見つめてしまう。どんよりした北欧の空の下。時には凄まじい雨が降る日もある。そんな中でも、静かに生きている。

 アキ・カウリスマキのそっけなさに似ているけど、この独特のユーモアとペーソスはロイ・アンダーソンならではのものだ。『散歩する惑星』を見た時から彼の世界に魅了された。この驚異のローテク映画のラストは、空一面に広がって飛ぶ飛行機の機影を見せる場面だ。人々がそれぞれの場所で空を見上げるシーンの後、それは描かれる。この不吉なラストは世界の終わりを思わせる。

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