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映画・演劇のレビュー

『永遠の0』

2013-12-13 21:46:26 | 映画
 素晴らしい映画だ。ラストの岡田准一の幽かな薄い笑い顔が心に沁みる。零戦で空母に激突する。機体が急降下していく。その時、彼は何を感じたのか。そこにタイトルが出る。映画が始まって既に2時間15分が過ぎようとしている。これはそんな「0」に向けてのドラマだ。生きて帰ると約束したから、何があっても死ぬわけにはいかない。臆病者と言われてもムダ死には出来ない。妻と娘のところに帰るため。このラストシーンが始まりで、そのことが一番のメッセージとなる。山崎貴監督はこの大作を見事な作品に作り上げた。傑作だ。VFXの素晴らしさは言うまでもない。ゼロの空中戦を凄まじいリアルさで再現する。だが、これはそこを見せたい映画ではないことは一目瞭然だろう。では、戦争の真実を語ることが目的なのか、というとそうでもない。

 主人公は三浦春馬演じる青年だ。彼は、今まで何も知らなかった(その存在すら知らなかった)祖父の死について、調べる。そこから、いろんなものが見えてくる。自分が今生きている意味はどこにあるのか、そんなことすら、である。というか、それこそがこの映画の本当のテーマなのではないか、とすら思う。

 特攻で死んだ祖父の物語を生き残った人たちの証言で綴る。そこから浮かび上がる事実。戦争をテーマにした小説や映画は枚挙に暇がない。その流れの先にこの映画はある。だが、ただ過去の歴史の事実を描くのではない。今を生きる力をこの映画は与えてくれるのだ。そこが素晴らしい。

 何のために生きているのか、なんてよくわからない。彼は司法試験に4度も落ちて自信をなくしている。姉に誘われて祖父について調べることになる。最初は乗り気ではなかった。仕方なく付き合いで。だが、ギリギリの状況で生きた戦時下の飛行機乗りたちの話の中から、いろんなものが見えてくる。

 自分の祖父の世代の大人たちと向き合い、見ず知らずの彼らから60余年もの歳月を経て、祖父の話を聞く。三浦春馬が大人の役者たちと向き合い、しかも聞き役に徹して芝居をする。スリリングだ。こういう受けの芝居を彼が耐える。若い彼にとって、超大物のベテラン俳優を相手に芝居するって、凄いプレッシャーだったはずだ。しかも、がっぷり4つに組むのに、短時間一本勝負になる。でも、彼は負けない。平幹二朗や橋爪功はともかく、田中泯のシーンは大変だったはずだ。ラストでは夏八木勲との感動の対峙がある。これがついに本当の最期になった夏八木勲の雄姿がこの映画で見られる。それにしてもこの映画が遺作になるなんて、凄すぎる。死ぬ前にこういう芝居をするって役者冥利に尽きるだろう。

 祖父が何を考え、どう生きたのかを想像する。さまざまな証言から見えてくる彼の姿から、自分がこれからどんな生き方をすべきなのかを知らされる。2004年が舞台になる。今から10年前だ。この映画はその先の10年を見てきた僕たちに問いかける。それから10年をあなたはどう生きたのか、と。

 三浦春馬演じる青年の視点から、祖父である岡田准一の姿が描かれる。これは2014年の、この先へのメッセージだ。空白の10年。彼はどう生きたかを想像する。それはこの10年を自分がどう生きたか、という僕たち観客への問いかけでもある。



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