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映画・演劇のレビュー

劇団ほこりまみれ。 『我々の愛したアノ娘』

2013-12-16 20:31:46 | 演劇
ウイングカップ参加作品の第6弾。残すところは後ひとつになったのだが、この作品も含めて、今回の参加団体全体のレベルはすこぶる高い。過去3回のようなアンバランスはない。しかも、みんな凄く真面目。見ていて、こちらが恐縮するほどだ。真面目すぎてつまらない、というのはよくあるパターンだが、これらの作品はそうではない。真面目で、よく出来ていて、面白い。それって、凄くないか。

さて、今回の「劇団ほこりまみれ。」である。この集団は初見だが、まるで高校演劇を見ているようだ。そんな真面目さ、真剣さで、ひとりの女の子の物語を描く。5つのエピソードからなる短編連作のスタイルだ。父、親友、中学時代の旧友、恋人。その4人がそれぞれのエピソードの語り部となる。もちろんどの話にも主人公のあやこ(矢野紋子)はいる。

 他者の目から見たあやこ=「アノ娘」という体裁を貫く。作品自体が少し堅苦しいのが難なのだが、遊びの要素を入れるには、作品の構造も、見せ方にも余裕がない。しかも、自分たちでもそう思ったようで、第5話は、はちゃめちゃな(主人公本人がそう言っていた!)SFになっている。

 ここでは初めてあやこ自身が語り部となる。だが、この夢のパートであるエピソードも含めて、全体がとても真面目に考えられてあるのは一目瞭然なのだ。あやこが夢の中で、それまでの語り部である4人との関係を再検証する、というスタイルだ。宇宙船の中で、お姫さまの彼女がクルーの4人と旅する。敵との遭遇に対処する。というか、敵と戦うのだが、明確な敵は姿を見せない。シリアスではなく、遊びを取りいれたエピソードのはずなのに、ばかばかしい話にはならない。実はそんな気は作者にはないからだ。これは、重い芝居から弾けるためではなく、ちゃんと作品全体をまとめるための、大事なエピソードなのだ。全体のバランスを壊すどころか、お話の落とし所として、適切な展開をみせる。

コミュニケーションの不在。わかりあうことの困難。向き合っているはずなのに、まるで伝わっていない。彼らとあやことは、確かにそこにいる。一緒の時間を過ごしている。でも、お互いの距離は埋めきれない。両者の間に出来た溝。絶望的な距離感。でも、そこで彼らはぶつからない。ただ、お互いに佇むばかりだ。でも、そんな中で何かがほんの少し変わる。それでいい。悪い人なんかいない。でも、自分と相手は同じではない。一緒にいても孤独だ。

そんなさみしさを、抱えて人は生きている。そこで悩んだり、諦めたりしない。みんなあやこが好きだから、そして彼女もみんなのことが好きだから。そんな気持ちがちゃんと伝わってくる。ラストのあやこからみんなへのメッセージを伝えるシーンも含めて、どこまでも真面目すぎて、少し気恥ずかしいけど、いいと思う。



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