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映画・演劇のレビュー

突劇金魚『夜に埋める』

2013-12-13 21:36:47 | 演劇
 朝子と川田が夜の海に漕ぎ出すラストシーンが美しい。夜の高層ビルの赤いランプが恐竜の目に見える。芝居はアトリエS-pace という小さくて狭い空間を実に見事、有効に使い切る。階段状で迷路のような抜け道だらけのこのセット(サカイヒロト)は、この芝居の重要な要素だ。闇と隙間のジグザグな通路、廃墟を思わせる。具象と抽象がごっちゃになる。そんな空間で展開する不思議なお話。

 朝子は夜のビルの清掃の仕事をする。今日は両親の命日でお墓参りに行かなくてはならない。だが、どうしても逃げたい。新しいバイトの男がやってくる。川田だ。彼女はいつもおどおどする。ちゃんと人と向き合えない。だから、この仕事をしているみたいだ。川田ともうまく接することが出来ない。だが、彼はまるでそんなこと、気にしていないようだ。

 そんな2人のところに、山田まさゆき演じる浮浪者、高男がやってくる。彼は、父の骨(骨箱に入れたまま)を大事に持っている。もう3ヶ月も中州に棲む川田は、臭い。高男は父の骨の復元を望む。なぜか、死んだ父が現れる。しかし、帰ってきた幽霊の父は、昔の父ではない。威厳もなく、ハイテンションだ。

 夜のビルから、高男に盗まれた弁当箱を追いかけて、廃墟になっている隣のビルへと移動していく。恐竜の化石の発掘現場へと向かう。やがて、疲れてしまった3人は朝の路上で寝ていた。そんな3人を朝子の妹の小夜子が見つける。彼女は3人を家に連れて帰る。

 なぜ朝子は妹から逃げるのか。妹はどうしてここまで姉に拘るのか。両親はどうして死んだのか。ここにはわかりやすい説明はない。ただ、おどおどする姉と彼女を丸ごと受け止めようとムリする妹がいる。ふたりのぎこちない関係は、何なのか。姉は逃げだす。

 彼らはどこに行こうとするのか。ここからどこかへと、どんどん逃げていく。クリスマスが近づく師走の夜をかけぬけていく。子どもの頃、妹が大事にしていた宝石箱を盗み出して、夜に埋めてしまったことから始まった。

 提示されたイメージの美しさのみを追いかけていく芝居だから、そこには意味はない。85分という上演時間がとてもぴったりだ。それ以上になると、どうしても芝居は意味になってしまう。意味を説明し始めると、美しくなくなる。少しわがままかもしれないけど、サカイヒロトが作り上げた迷宮となる舞台美術の中で、彼女たちがただただ右往左往しているだけでいい。どこまでも堂々巡りの世界で佇むばかりだ。

 突劇金魚に入団した片桐慎和子の持つキャラクターを最大限に生かすことだけ考えて作りあげた童話のようなお芝居。このサリngROCKの夜の絵本を楽しむ。今回の突劇金魚はいつも以上に自由自在だ。奔放なイメージの世界を走り抜ける快感がこの芝居のすべてだ。



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