
ほぼ同い年で(彼の方がひとつ上)、大学も同じ京都。だから学生時代どこかですれ違ったかもしれない。そんな、今も同じ大阪で暮らす増山実さんの最新小説は、大阪大学沿線(阪急電車沿線ですな)の架空の駅前にある喫茶店が舞台になる。
1話を読み終えて、気になった。これをここまで書いた後、さっき調べたら待兼山町って架空の町ではなく、ちゃんとありました! 石橋駅から南側。しかも阪大の中にある里山が待兼山らしい。知りませんでした。しかも石橋駅は今は石橋阪大前駅になったのも知らなかった!これは明らかに石橋駅がモデルで待兼山は五月山ではなく、待兼山町にある里山。
待兼山駅はこの9月から大阪大学前駅と駅名が変更される。それを契機にして喫茶マチカネは1階の本屋、らんぷ堂書店と共に閉店する。その閉店するまでのラスト半年。毎月11日に閉店後に待兼山奇談倶楽部を開いて、この店の思い出を語ることになる。
2話からは短編連作のスタイルになり、奇談倶楽部でのさまざまな話者の話を聞くことになる。昔ながらの商店街を擁する駅前の小さな町。いずれにせよ、どこにでもあったとても身近な光景が見えてくる。そこにあったありふれた喫茶店。だけど、そこは町の人から愛されている。そんな場所が描かれる。ファンタジー色が濃くなる。奇譚を語るというスタイルゆえか。
閉店するまでの半年間、6回の集まり。店に入るくらいの人だけど、たくさんの人が毎回やって来て懐かしい思い出を語り、不思議な体験を話し、名残を惜しむ。
そしてラストの7話。まさかの展開になる。沖口さんが語るのはパラレルワールドの待兼山駅の話である。実はこの世界には石橋駅はなく蛍池駅と池田駅の間には待兼山駅のある世界。こんな展開になるとは思いもしなかった。
冒頭の違和感というか、不思議な感触は作者が仕掛けた意図したものだったのだろうか。よく利用していた宝塚線だし、何度か石橋駅にも降りたことがあるから、この話はとても面白く読めた。お話は死期が迫った男(余命半年は、駅名が半年後に変わること、さらにはこの喫茶マチカネの閉店と重なる)が現実と僅かに違うもう一つの世界に迷い込み不思議な体験をする物語というところに落ち着く。