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映画・演劇のレビュー

『ナインティーン 19』

2024-09-20 13:32:00 | 映画

2021年の韓国映画。偶然Amazonプライム・ビデオでこれを見つけた。簡単なあらすじを見て、「なんじゃこれは!」と思い見ることにした。こんなストーリーの映画がどういうふうに描かれるのか、と気になる。この日本版タイトルのそっけなさも気になった。まるで説明にはなってない。映画はセンセーショナルな設定なのに映画自体もそっけない。冒頭のスケッチのような描写はまるで明るい青春映画みたい。監督はウ・ギョンヒ。これが第1作。

ソジョンは19歳。韓国の19は日本では18歳らしい。だから彼女は高校3年生。怪物のように暴力を振るう父親と病気を煩う母親。家で暴れていた、そんな父が出ていった。介護が必要な母親をほったらかしたまま。普段は娘である彼女が面倒を見るが、学校に行っている間はヘルパーさんに任すしかない。なのにその日はヘルパーがなかなか来ない。そして家に帰ったら、母親が血を吐いて死んでいた。もちろん警察に電話するけど、何故か途中で切ってしまう。ここから映画は本格的に始まる。
 
なんと死体になった母との同居生活を始めるのだ。これはあまりのことで、理解に苦しむ展開である。死体遺棄に問われるし、殺人を疑われるはず。しかも夏場の死体は腐りやすい。とか、いやそんな問題ではない。だけど彼女は束の間の自由を満喫する。まさかの展開である。生まれて初めてのひとり。
 
職場体験を兼ねたバイト先で出会った男の子と親しくなる。彼もまた家庭に問題を抱えていた。恋とは違うけど、彼の優しさがうれしい。これは彼女にとって初めての自由。静かな家でひとり暮らし。だけど腐乱した死体は臭う。母はもう死んで腐乱してくる。夏休みはやがて終わる。期間限定の自由。やがてすぐに破滅がやって来て自分は警察に捕まる。何も悪いことをしていない。それどころか,ずっと虐待されてここまで自由もなく生きてきたにも関わらず。
 
この理解に苦しむ映画の描く孤独に心震える。お風呂にある死体を見た彼は一度は逃げ出す。当たり前だろう。だけど、再び彼女のもとに戻ってくる。彼女を支えようとする。相変わらず優しい。夏はこうして終わった。
 
この小さな映画を見てよかった。彼女は理不尽と戦い何かを摑む。これはそんな「ひと夏」の残酷な物語である。『ナミビアの砂漠』と感触が少し似ている。

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