習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

collect-collection 『ワンダフルニャン』

2011-02-01 22:30:18 | 演劇
 ニュートラルの新作『屋上サーファー』はいつもの大沢さんらしい2人芝居で、安心して見ていられる。この感じが大好きだ。ここは都会のかたすみの、誰も知らない秘密の場所だ。主人公の女性は、そこから見える風景を大事にしている。そんな何でもないことに、なぜかドキドキさせられる。

 仕事の合間、休憩時間に病院の屋上にやってくる看護婦(看護師ではなく、看護婦と言っていた気がするが)。彼女は一人になるため、ここにくる。たぶん、いつも。そこで、見知らぬ女と出会う。ここは関係者以外立ち入り禁止です、と言うが、女は我関せずと言う感じで、話しかけてくる。この女はビルの屋上に入り込むことを趣味にしているらしい。

 一瞬の出会い。共有する時間。女は屋上で空想のサーフィンをする。2人は一緒に耳をすませる。浪の音が聞こえてくる。想像の世界の中で彼女たちは波に乗る。都会の喧噪から離れて。村上春樹なんかがよく書くような世界だ。いつものことだが今回も一瀬尚代さんがいい。ただ彼女がそこに佇んでいるだけで絵になる。そのことを大沢さんはよく知っている。だから、特別なことはしない。

 dracom の『gallery』は美術館で絵を見る人たちと絵画の監視をしている学芸員(ただのバイトかもしれないが)の女性の話。というか、ドラカンなので話なんかはない。ただ絵を見るためにそこに立っている。ただ静かに椅子に座ってそこに居る。この両者の間にドラマが生じるわけはない。何もないはずなのに、それがおかしい。

 やってくる客は一応2人一組になっていて、彼らのバカバカしい行動を見ることになる。これって、ドリフのコントによくあるパターンだ。前半の穴見さんと村山さんの部分は、おもしろいけれども、後半のカップルの部分は訳のわからないダンスを見せられそれはそれで驚くが、ちょっと退屈する。いつものように作、演出の筒井潤さんによるナレーションが全編を覆い、この呪文のような声が芝居とシンクロしたり、しなかったり、でおかしい。この何とも言えないグラグタ感がいい。監視員の女性のプロフィールが語られる部分は最高である。これは3月にウイングフィールドに於いて全長版が上演される。(それだって、40分くらいらしいが)

 妄想プロデュース『アンブレラ』もストレートなラブストーリーで、彼ららしい体を張ったエンタメ作品。気の弱い男と、気の強い女が結婚することになる。2人の結婚前夜の逡巡が描かれる。殊更お話に仕掛けはいらない。このストーリーを信じて、突き進むしかない。それでいい。

 そして、ラストはコレクトエリット『樹にすむ祈り』。タイトル通り祈りについてのポエムのような物語。たった15分(これが今回一番短い)ほどの作品が、僕たちを粛然とした気分にさせる。それぞれの方向を向く3人の役者たちの身体と言葉から、樹の内と外、命の本質についてが語られていく。まっすぐに作品に向き合い自分たちがそこにいることの意味を考える。そんな時間がとても心地よい。思わずはっとさせられる時間だった。

 4本の短編はそれぞれが別々の劇団によるものであるし、ここには統一したテーマなんかなかったはずなのに、これはまるで、ある種のテーマのもと作られたオムニバスのように見える。彼らが見つめるものは「今、ここにいる」ということだ。自分たちの立ち位置がそれぞれの短編で語られる。僕たち観客もまた、これらの芝居を見ることで、自分が今どこにいるのかを考えさせられることになる。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 東野圭吾『カッコウの卵は誰... | トップ | 湊かなえ『往復書簡』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。