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映画・演劇のレビュー

湊かなえ『往復書簡』

2011-02-03 23:29:45 | その他
 3話からなる連作。手紙のやりとりからなるミステリ。湊かなえの小説としてはこれまでで一番よくできている。ただ、『告白』の時もそうだったが、最初はいいけど最後までその勢いが持続しないのが彼女の問題点だろう。今回は各エピソードがほとんど独立しているからトータルな評価は意味がないのかもしれないが、3話目の弱さは如何ともし難い。

 話自体もよくできているし、必ずしも単純ではないし。2話まではこの手の作品としては最高の出来かも、と思ったのだが、3話で力尽きる。急に嘘くさくなりドラマの奥行きもなくなる。

 先の2作は事故を巡る複数の子供たちの心の揺れを描いていた。高校の放送部の仲間たちがコンクールの作品を作るために夜の山に音を録音に行く『10年後の卒業文集』。担任の先生が企画した小学生たちの仲直りハイキング『20年後の宿題』。ここでは彼らがそこで体験したことが、10年、20年後の彼らにいかなる影響を与えているのかが描かれる。それぞれの心の動きがよく描かれていてドキドキさせられる。ほんの少しの見る角度や状況の相違が一つの出来事を大きく変える。

 それに対して、第3話『15年後の補習』は恋人同士のやりとりに終始していて、そこから膨らまない。記憶から消してしまった事件を巡るサスペンスというところは先の2作と同じなのだが、これだけなぜか嘘くさい。複数の視点がなくて、単純だからか。

 ただ言えることは、事件を核に据えて人の心の動揺を描くという彼女のスタイルで描けるものは、どうしても頭の中で作ったドラマでしかない、ということだ。とてもよくできているけれど、残念ながらどこまで行っても「リアルごっこ」の域を出ない。


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