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映画・演劇のレビュー

東野圭吾『カッコウの卵は誰のもの』

2011-02-01 22:27:19 | その他
 暇つぶしに東野圭吾を読んだ。今すぐ読まなければならない本が手許になかったからだ。電車の往復だけが僕の読書時間なのだが、何もないまま電車に乗るわけには行かない。そこで、彼である。次から次へと新刊が出るから、読んでも読んでも追いつかない。だからいつでもまだ読んだことのない彼の本はある。しかも、読んでいる分には、退屈しない。だから、こういう時には無作為に彼の本を選んでしまう。ついつい安全圏で勝負してしまうのだ。最近読んだ前回の芥川賞受賞作品なんか、最低だった。あんなつまらないものを読む暇があったなら、僕は東野圭吾を読む。

 読み出すと、止まらなくなる。いったいこの先どうなるのか、気になる。今回もそうだった。だが、話はそれほど広がっていかないし、予定調和に落ち着く。ラストは「よかったね」とは思うが、それだけ。350ページも読んで、これだけでは納得がいかないけど。ストーリーテラーであることは認める。ちょっとしたミステリ仕立てで、親子の愛情物語で、謎もとてもうまく解けて、収まるところに収まる。

 父はもとオリンピックにも出たスキーヤーで、その血を受け継ぐ娘は今、ワールドカップ目指して頑張っている。しかし、彼女の出生にはある秘密があった。封印された19年前の事件が明るみに出るとき、彼らに何が起きるのか、とか。まぁ、そんな感じの話だ。それに遺伝子情報が優秀なスポーツ選手にどんな影響を与えるのか、なんていう研究とか、が絡んでくる。でも、そんなこと、どうでもいい。それより、父親を主人公にしてしまったことで、娘の気持ちがあまり描かれないので、ドラマとしての奥行きがない。しかも、全体の話を組み立てるためだけに、周囲の人物の話も説明的に描かなくてはならなくなった。その結果ストーリーの表層を軽くなぞっただけのものになった。残念な1編。


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