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映画・演劇のレビュー

第2劇場『かなこるむ。』

2012-03-06 21:17:46 | 演劇
 これは凄い作品だ。近年の四夜原茂作品の中でもピカイチの傑作ではないか。最後まで緊張が持続する。いつも、どんなに面白い設定を用意しても、後半になると底が抜けることが多いのに、今回はそうじゃない。圧力釜を使って、とてもスリリングな展開を見せるのだ。だが、そこがメインではなく、あくまでもメインはホームドラマであるのが、この作品のミソだ。

 震災原発を扱った作品の中でも異色の作品になっている。コメディータッチの語り口だが、とても落ち着いたタッチで、淡々としている。どこまでいってもハイテンションにはならない。圧力釜が大変なことになり、熱を持ちすぎた釜を冷却するために水をかけるのだが、という感じの話になる。だが、そこに焦点を絞ったへんな盛り上がりは、なしにしている。そこはあくまでもただの彩りでしかない。だが、とてもバカバカしいはずなのに、その部分はなんだかリアルで怖い。

 エコを標榜する定食屋が舞台で、観客はカウンターの内側からの目線で、芝居を見ることになる。まずは、この逆転した視点をずらした舞台美術の作り方が人を食ってるし、とても秀逸だ。ここは故意に電気も、ガスも、水道も止められてある。ライフラインとなるこの3点セットがないのに、そこで飲食店をしている、というのが笑える。だが、本人たちは至って真面目だ。エコですから。電気は自家発電で、ガスはカセットコンロを使用している。水は、天然水である雨水とかを利用している。そんなんで大丈夫か、と言うと、無理でしょと言うしかない。まぁ、これは冗談のようなものだ。

 大体、主人公のかなこ(竹腰かなこ)からして、へんだ。自分のことを真顔で「幽霊です」とのたまうのだから、普通じゃない。人間モードの時と、気分で存在を消して幽霊になるときがあるようだ。なんとなく、ここにやってきた男(平野洋平)はそのまま居ついて、ここで働くことになる。異邦人である彼の視点から芝居は展開するという実に分かりやすいパターンなのだが、そんなこともまた、わざとそうしている。パターンを踏むように見せかけて、パターンの先には安心させるようなありふれた展開はない。

 この店の主人であるはずの横山(横山秀信)とその娘、かなこの話が中心になるはずなのだが、彼らは本当の親子ではないらしい。そんな2人のもとにやってくる常連である人々とのやりとりが描かれていく。家出した母親の話なんかも描かれて、なんだか家庭劇のような展開もある。なぜ、母親はここから出て行ったのか。かなこと彼女には血のつながりがないらしい。しかも横山とも、である。では、この3人はただの他人ではないか。

 それより、何より、一番気になるのは原発、じゃなくて、あの圧力釜! かなこの日常を描くこの芝居の背後を流れるドラマを深読みして楽しむのも、いいだろう。こういうアングラ芝居って昔はよくあった気がするが、今ではほぼ死滅している。それを阿部さんはさりげなく復活させる。こんなにもドキドキさせられるのに、何もない。そこもまた凄い。
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