先日ようやく読み終えた大作『鈍色幻視行』のスピンオフ。本編とほぼ同時で刊行された。あの2本の呪われた映画の原作となる小説、飯合梓が描いた伝説の小説、という形式で書かれた作品。10年以上前に書かれていたが、今回本編完結に合わせて刊行となったようだ。
この作品が何故あんなにもたくさんの人たちの心を引いたのか、どんな魅力がこの小説にはあるのか、興味津々で読み始めたのだけど、残念ながらまるで乗れなかった。単独の作品として読んでもまるで面白くない。『鈍色幻視行』と絡めても、ダメ。やはりこういう企画ものは難しい。
主人公の少女(実は男)がどういう立場にあるのか、彼女は何者か、という部分を秘したまま、ストーリーはどんどん進んでいく。だが、それがあまり効果的ではなく、舞台となる娼館もミステリアスだが、それだけ。生と死、現実と幻想のあわいで、彼らは革命を夢見る。女たちの現実と男たちの幻想。それがどんな結末に辿り着くのか。カーキ服を着た男たちは2・26をモデルにしているようだが、政治や戦争は全面に出ない。ここで暮らす女たちのドラマも希薄。主人公の少女の視点から描かれるドラマも。3人の母親のことや、彼女の秘密。さらには、それが読者にどれだけの影響を与えたか。散りばめられたいろんなことが伝わりきらないのが、歯痒い。
せめて、ちゃんと2作がリンクして相互に刺激を与え合う。そんな作品になっていて欲しかった。