『大鹿村騒動記』

　阪本順治監督の新作であり、原田芳雄の遺作になった作品である。最期の映画が主演映画で終われてよかった。彼は最後の最期まで映画スターであり、映画俳優だった。これは今時不可能な企画である。昔ならプログラム・ピクチャーとして、こんなタイプの映画も作れたが今の時代では難しい。低予算でフットワークも軽く、でも、映画はとても豊かな作品に仕上がった。いろんな意味で奇跡のような映画だ。

　原田芳雄はこんなコメディー映画の傑作に元気な姿で主演したのだ。そして、そのまま死んでいった。なんて潔い。もちろん死期が迫っていることは重々承知でこの企画を待ったようだ。なんとかギリギリ間に合う。神さまが彼に味方したのだ。きっと。

　南アルプスの麓の村。長野県大鹿村が舞台である。そこでは３００年の伝統を誇る大鹿大歌舞伎という村芝居がある。村でシカ料理屋を営む善さん（原田芳雄）は歌舞伎の花形である。あと少しで今年も芝居の日がやってくる。そんなある日、１８年前に駆け落ちした彼の妻（大楠道代）と幼なじみ（岸部一徳）が村に帰ってくる。お話はここから始まる。

　タイトル通りの村をあげてのドタバタ騒動が描かれる。たわいもない話なのだが、見ているとなんだか心が和む。この田舎の村でのなんでもない日々の営みが、なんだかわからないけど、見ていてとても気持ちがよいのだ。

　それにしてもこのスケールの映画には不似合いなほどの豪華キャストなのは、これが原田芳雄の最期になるかもしれない映画だったからなのか？