
スターツ出版文庫の表紙は大人が読むにはいささか恥ずかしい。これは第3回『きみの物語が、誰かを変える。小説大賞』(なんというタイトル!)でTSUTAYA賞と長編特別賞を受賞したという作品。
読み始めて、これはダメだ、と思った。まるで話に入り込めないのはあまりに作品世界が作り事でしかないからだ。少女がノートに書いている幼い小説みたいで、主人公の恋愛物語はただの空想世界の絵空事でしかない。この手の少女小説はみんなこんな感じなのだろうか。独りよがりの世界観は自分だけで閉じていてリアリティはない。だけどこれが心地よく楽しいと思って読むファンがいるからこの手のファンタジーが商売として成り立つのだろう。
読み流していく。わざわざ読む必要性を感じないけど、これがどこに行き着くのか、少し気になったから。ほぼ最初からストーリーは予想されたし、その通りの展開をする。ただそこにどう着地されるのか、興味を持った。
記憶を失った少女と彼女に寄り添う少年。高校2年のふたりの過去。記憶は戻らないが、以前の自分と自分の自殺未遂を知ったことから始めた新しい生き方。甘いし、リアリティはないファンタジーだけど、こういうのを楽しんで読める層の子どもたちはやはり確かにいるのだろう。そして実は作品自体は悪くない。
スターツ出版文庫を初めて読んだのは酒井麻衣監督のまさかの傑作映画『夜が明けたら、いちばんに君に会いに行く』を見たからだ。あの映画の原作だったから手にした。作家は汐田夏衛。もちろん知らない人だった。後から知ったことだが、この後映画化されまさかの大ヒットした特攻隊映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』も彼女の小説が原作だった。
ということで、これがたぶんあの時以来となるスターツ出版文庫本。やはりあの時と同じパターンだ。謎解きとなる後半戦、やはりの展開となりお涙頂戴のドラマが描かれる。
ある特定の読者層に向けて書かれた作品が世代を超えてアピールする場合もある。『あの花が咲く丘で』がそうだった。この小説もたぶんそんな感じの作品であろう。上手く映画化したらきっと不特定多数にアピールする、かもしれない。