
バンコクからの帰国子女である漣。日本に戻って、通学電車で何度となく痴漢に遭い、恐怖から普通に生活することができなくなっている。周囲の男たちが怖い。そんな彼女を助けたのが、彼だった。だけど、彼はDVで離婚した姉の夫の弟で、彼女の地獄は彼を好きになったことから始まる。
400ページに及ぶ長編のラストまで、気を抜くことができないし、読み終えた今も何も終わっていないことは明らかだ。たった一歩を踏み出すことが、どれだけ勇気のいることなのかを、改めて教えられた気がした。これは傑作である。彼女が何と戦い、何を手にする出来るのかをこの小説は伝えてくれる。
たまたま『漁村の片隅で』を見た直後に、この本を読み始めたのだが、いつものことながら、そこではいろんなことがつながっている。いずれも同じように少女がとことん傷つけられるお話で、読みながら、息苦しくなる。でも、そこから目が離せなくなるのも同じだ。どれだけ過酷な状況にあろうとも彼女たちは生きることをあきらめない。だから僕もこの重くて暗い話と向き合う。
高1の少女がこれ以上ないほどの痛みをこえて必死に生きていく。痴漢の被害に遭う冒頭から、幼い恋心をあきらめ、でも、あきらめることなく、支えられ、それでも生きていく。そんな紆余曲折が描かれていくのだが、それはとてもリアルだ。そこには嘘がない。都合のいい展開の作り話にはうんざりさせられるが、こんなにも劇的なドラマなのにそれが嘘くさくはならないのが凄い。だから、読んでいて、止まらない。そういう意味でも『漁村の片隅で』と似ている。
あの映画の少女は12歳。この小説の少女は15歳。そしてこの小説を読み終えた直後に見た『永遠の人』の主人公はたぶん18歳くらいではないか。(こちらについてはもう先に書いたけど、彼女もまた凄まじい人生だったのは、書いた通りだ)偶然この3作品が続いた。主人公の3人の辛酸が胸に響く。
この小説の主人公の姉は、夫の暴力に苦しめられ心と体を壊し離婚した。もう人は信じられないと、心を閉ざしている。この小説を読んでいる途中で『永遠の人』を見たのだが、あの映画は、自分をレイプした男との結婚を強要され、30年間ずっと耐え続けて生きる女の話である。たまたまだけど、ここでも何かが連結している気がした。
3人の主人公たちが理不尽なこの世界と向き合い、戦い続ける姿に何度も涙してしまった。彼女たちの強さはいったいどこから生まれたのかをしっかり見つめていこうと思った。読みながら、見ながら、安易な答えなんかここには一切用意されていない。ぎりぎりまで追い詰められて、それでもさらに過酷な現実を突きつけられて、立っていられないところにいる。なのに、彼女たちは負けない。
姉の夫だった男の弟を好きになり、自分の想いを貫くのではなく、みんなの気持ちを汲み取って、自分を抑えて生きていこうとして、でも、それも叶わずボロボロになりながらも、答えを見つけようとする。一応これは恋愛小説の体をなしてはいるけど、当然恋愛を描くにもかかわらず、甘いものではない。でも、ここには愛に力がしっかりと描かれてある。