ようやく大阪でも映画が見れるようになった。公開が延期されていた映画も順次公開されていく。この映画もそんな1本。1年間も待たされた。橋本一監督作品なので、あまり期待はしてなかったけど、今、北斎をどう描くのか、楽しみでもあった。映画を見て驚いた。
橋本一監督の最高傑作だろう。今まで東映の御用監督で言われるままにプログラムピクチャーを撮り続けていた。だから、自分の本当に作りたい映画はほとんど作れてなかったはずだ。あの『櫻姫』だって完全に自分の思い通りに作れたわけではなかっただろう。それだけに今回、彼の執念が結実し、一世一代の仕事に出会えたのではないか。持てる力のすべてを注ぎ込んだ渾身の一作である。こんなにも凄い映画に出会えるとは夢にも思わなかっただけに、うれしい。
決して大予算の大作映画というわけではないはずなのに、凄く丁寧に作られてあり、貧乏くさくはない。それどころか贅沢な映画になっている。この映画に賭ける作り手の執念のようなものがビシビシと伝わってくる。それは北斎の情熱にも通じる。これは一切の手抜きなし、本気の映画なのだ。橋本監督にとって生涯の1本になったのではないか。これだけの大作を任されて、そこに自分の持つ力のすべてを注ぎ込んだ。
前半と後半で別の2本の映画を見た気分になる。若き日の北斎を柳楽優弥が演じる。この前半と、田中泯の演じる老境に達した北斎を描く後半はまるで別の映画のようだ。青年がいきなり老人になるという違和感をものともしないのは、主人公を演じた2人がそれぞれ自分の個性を押し出しているからだ。同一人物なのに、まるで別人で、別の映画を見ている気分。そんなところも大胆でいい。でも、共通して彼らは自分を貫き通す。
今までの北斎映画とは違い、ここには自分の信念を貫く青春映画のような一面が強調される。だから北斎でなくてもいいくらいなのだ。自分の描きたい絵を求めて貪欲に挑み続ける。それが波の絵に結実していく。